欧米の内側でくすぶり始めた「価値観の戦争」

Foresight World Watcher's 4 Tips

執筆者:フォーサイト編集部2025年2月15日
欧州側には「民主主義なるものは何かという点についてすら合意できない」との声もあったという[2025年2月14日、ドイツ・ミュンヘン](C)EPA=時事

 J・D・バンス米副大統領によるミュンヘン安全保障会議での演説が大きな波紋を広げています。事前に予想されていたロシア・ウクライナ戦争の停戦交渉に関する内容ではなく、欧州に対する強い不信感が表明されたことは驚きをもって伝えられました。なぜこうした発言に至ったのかについては、現時点では詳細な論考が見当たりません。もちろん、欧州のSNS規制がイーロン・マスク氏率いるX(旧ツイッター)の利益を損なうというような部分もあるのでしょうけれども、それだけで説明できるものでもなさそうです。

 欧州側の反応もまず「唖然」、そして怒りというものだったようです。少なくとも直視しておくべきは、「米国と共有するはずの最も基本的な価値観が後退している」というバンス氏の発言が、欧州と米国の間に民主主義の理解・定義をめぐって大きな食い違いが生まれつつあると示すことです。

 トランプ政権の外交が脱価値的なものになる一方で、価値観の表象性や影響力が低下したわけではありません。いわば「異なる民主主義」同士が衝突する。独公共放送ZDFは「今や、第二次世界大戦以来、何十年にもわたって本来アメリカとヨーロッパを結びつけてきた価値観が、もはやその形では通用しなくなっていることが非常にはっきりと示されている」と伝えています。価値観の戦争状態が欧米の内側で生まれつつあることが懸念されます。

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