私が見た「ヨーロッパ人の働き方」

執筆者:大野ゆり子2009年9月号

所変われば品変わる。就職活動、ワークライフバランスへの取り組みなど、ヨーロッパの「働き方」最新事情。[ブリュッセル発]一九九〇年代半ば、私がドイツの大学に入った初日のこと。希望に目を輝かせる十七、八歳の新入生に対して、大学教授がシビアな口調でピシャリと言った第一声が、今でも強く印象に残っている。「まず言っておきます。大学卒業後の将来図ですが、普通に過ごしていたら、就職口はないと思ってください。私の同級生数人は現在、タクシーの運転手として生活費を稼ぎ、数人は失業中です。皆さんは大学に勉強に来たわけですが、これからの数年間、学校の課題だけに追われる、受け身の姿勢ではいけません。大学はその後の人生の設計図を描き、戦略を練る時期でもあるのです。あなた自身の人生なのです。待っているだけでは将来はありません」 ドイツではちょうど東西統一のお祭り気分が冷め、統一によるマイナスの部分のほうが浮き彫りになってきた時代。旧東ドイツでの失業率は二割近くに達し、ドイツ全体の経済も停滞していた。そのあおりを受けたのは二十五歳以下の若者で、統計によると、ほぼ十人に一人が失業していた計算になる。 今日から新生活だ、と思っていた若いドイツ人学生たちは、教授の話で冷水を浴びせられたように表情を曇らせた。日本だったら入学式ぐらいは希望のある話をするのではないだろうか。しかし、「本当のことを言うのが美徳」と考えるドイツでは、現実をわからせるほうが、教師として誠実な態度なのだろう。

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