人質の命よりハマス殲滅を優先、崩れゆくイスラエルの「社会契約」
2025年7月4日
人質となった家族の解放を求めてデモに参加するギル・ディックマンさん(2024年10月7日、以下写真はすべて筆者撮影)
ガザ地区への人道支援の封鎖をめぐりイスラエルに対する国際的な圧力がかつてないほど高まるなか、イスラエル国内では社会的な分断に加え、国民と国家の間の信頼関係にも揺らぎが生じている。
2025年1月、イスラエルとハマスは23年11月以来となる2度目の停戦に入り、33人の人質が解放された。解放された人質は1度目の105人と合わせて138人となる。人質の家族は喜びをあらわにしつつ、残りの人質についても解放を優先させるよう政府に求める姿勢を貫く。しかし、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる政権はまだガザ地区に50人の人質が残っているにもかかわらず、停戦合意を破り、攻撃を再開した。これに対し、イスラエル軍においてはエリートが集まる空軍パイロットや、地上戦闘部隊の精鋭集団ゴラニ部隊の兵士、さらにはイスラエル軍のエリート中のエリートである「タルピオット・プログラム」の修了生までもが戦闘再開に反対し、人質解放を求める書簡を出した。
「人質解放」はイスラエルにおいて特別な意味を持つ。ネタニヤフ首相はあくまで2つの目標を同時に達成すると一貫して主張を続けるが、半数以上の国民の目には政治的な生き残りのために戦争を長引かせているように映る。国民の命よりも政治を優先させているのではないかという疑念が、国民国家としてイスラエルが築き上げてきた国家と国民の間の「社会契約」を揺るがしている。
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