ロシアにとってイラン弱体化のシナリオは悪夢だ[クレムリンで握手を交わすプーチン大統領(左)とイランのアラグチ外相=2025年6月23日=ロシア・モスクワ](C)AFP=時事

油価が上がっても浮かない顔

 欧州石油市場の指標価格であるブレント油価は、今年1月中旬には1バレル当たり83ドル前後で推移していた。ところが、1月20日にトランプ政権が発足し、関税戦争を始めると、世界経済の先行きが不透明となり、油価は下落に転じた。これは、財政歳入の多くを石油部門から得ているロシアにとっては、死活問題である。現に、ロシアは早くも4月の時点で、2025年の連邦予算の修正を迫られていた(修正法は6月24日に正式に成立)。

 それが、6月13日にイスラエルがイランへの大規模な空爆を開始し、両国が事実上の交戦状態に突入すると、直前まで60ドル台で推移していたブレント油価は一気に高騰し、ピーク時の6月19日には80.4ドルに達した。今年に入り経済に陰りの見えていたロシアにとり、イスラエル・イラン紛争に伴う油価の急騰は、思わぬ追い風であった。

 しかし、イラン情勢を目の当たりにして、ロシアの政権幹部たちの表情は、明らかに浮かないものだった。無理もないことで、ロシアにとりイランは戦略的に重視している友好国であり、今年1月には包括的戦略パートナーシップ条約を結んでいる。プーチン・ロシアにとってみれば、シリアのアサド政権崩壊後は、イランこそが中東戦略の要であった。

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