ドミトロ・ヒリュク(中央)はロシア軍の侵攻開始からまもなく自宅で拉致された。最初から狙われていたと考えられる[捕虜交換でウクライナに帰国したヒリュク=2025年8月24日、撮影地は非公開] (C)REUTERS/Maksym Kishka

 

 使命感にかられるあまり、自らの安全も省みずに占領地に突っ込んでいったヴィクトリヤ・ロシナ(1996-2024)は、見方次第で常識外れのジャーナリストだといえるだろう。もし日本だったら「自己責任」との非難が出たかもしれない。

 ただ、ヴィクトリヤがロシア占領地で受けた待遇は、特異ではあっても、決して例外的ではない。むしろ典型的である。ロシア占領地に残されたジャーナリストたちのほぼ全員が同じ問題に直面しているからである。

「ヴィクトリヤの例は確かにドラマティックですが、他にも似たような例はあります」

 パリに本部を置く「国境なき記者団」のウクライナ地域マネジャー、ポリーヌ・モフレ(30)は語る。

「国境なき記者団」のウクライナ地域マネジャー、ポリーヌ・モフレ

26人が拘束

 モフレは、ヴィクトリヤの軌跡を追う調査報道専門ニュースサイト『スリドストヴォ・インフォ(調査情報)』の記者ヤニナ・コルニイェンコ(29)の取材に協力する一方で、占領地で記者らが置かれた状況について以前から調査を続け、警告を発してきた。彼女によると、占領地で拘束されたジャーナリストは、2014年から占領されているクリミア半島や紛争状態にある東部ドンバス地方も含めると、2025年8月7日の取材時点で28人に及んでいた。その結果、独立したジャーナリストは占領地に1人も残っていない。

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