国際法の議論にそって、集団的自衛権の行使が合憲であることをはっきりさせない限り、「ドイツ国法学」の亡霊から日本の安全保障政策論が解放されることはない[党首討論で立憲民主党の野田佳彦代表に答弁する高市早苗首相=2025年11月26日](C)時事

 高市早苗首相の国会における「台湾有事」発言に、中国が激しい反発を示した。高市首相の反中国の姿勢は従来から顕著だったが、それに対する中国の不信感も根深い。問題は長引くだろう。

 この混乱の背景には、双方の不信感に加えて、様々な問題がある。台湾をめぐる日中両国間の歴史的背景、台湾の国際法上の曖昧な地位、アメリカの戦略的曖昧性の今日的な運用体制、日本と中国の力関係の過去数十年での劇的な逆転に伴う両国民の心理、中国政府の高市政権の政策に対する警戒心、日本国内の高市支持者の鮮明な反中的な性格と解散選挙をにらんだ政局の動き、などだ。いずれも容易には解消されない問題ばかりである。
だが意外にも注目されていないのは、日本の平和安全法制における「存立危機事態」概念の特異な仕組みだ。高市首相の発言については、野党が誘導尋問をした、首相が軽率だった、などの当事者に焦点をあてる意見が多々ある。だが、それらは結局、安保法制にもとづく「存立危機事態」の認定が、非常に曖昧模糊とした議論にならざるをえないことに起因する。

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