かつて世界を席巻した「日の丸半導体」は、なぜ衰退したのだろうか。経済の武器化が進む新たな国際秩序の中で、半導体が経済安全保障のキーファクターとなるのは確実だ。2027年度に最先端半導体の国産化を目指すラピダスの小池淳義社長と、近著『地経学とは何か』(新潮選書)で日本が獲得すべき「戦略的不可欠性」に着目した鈴木一人・東京大学大学院教授が、グローバルなエコシステムの中で勝負するという新たなファウンドリー像を描き出す。

※動画チャンネル「新潮社イノベーション読書」で2025年11月28日に公開された番組をもとに、編集・再構成を加えてあります【構成・梶原麻衣子】

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鈴木一人 地経学は、現代の世界において国際関係を規定する際の中心が軍事力や外交から、経済へ移りつつある中で生まれたものです。最近刊行した『地経学とは何か』でも触れていますが、地経学の考え方においてカギになるのは、戦略的自律性と戦略的不可欠性という言葉です。

 その国が高い自律性を持っている場合は外国に左右されることなく、自分たちの意思決定ができます。他方、不可欠性を高く持っている場合は、他国に対して「この製品や物資の輸出を止めたら、あなたたち困るでしょう」と言って圧力をかけることができる。中国のレアアースや、台湾の半導体などがこれにあたります。

 その中でもやはりこれからの世界では、半導体が重要性を増していくでしょう。ラピダスの小池社長に対談をお願いしたのは、まさにその半導体における日本の不可欠性を高めるために、極めて重要な役割を果たすのがラピダスという会社だからです。

小池淳義 よろしくお願いいたします。

日の丸半導体が陥った「驕り」の罠

鈴木 ラピダスという会社が目指しているのは、2ナノ、ビヨンド2ナノという先端半導体を作っていくことです。今は先端半導体と言えば世界中が台湾企業のTSMCに頼っていますが、これによって台湾には不可欠性が生じている状態です。

 一方、日本も先端半導体を製造する技術を自前で持ち、日本の台湾への依存度を減らす。つまり自律性を高めることを目指しています。これは同時に、台湾の不可欠性を減じることでもありますね。特にこれからはAI(人工知能)の需要などで先端半導体の需要が急増し、その需要はTSMCだけでは賄いきれないだろうとも予測されます。

小池 まさに我々ラピダスは、半導体のグローバルなエコシステムを作ることで勝とうと決めた会社です。ただし、TSMCと戦おうというものではありません。世界的に高まる需要に合わせて、TSMCは大量生産に強みを求める一方、ラピダスは需要に合わせた多様性ある半導体を機敏に供給するといった、それぞれの個性を生かせばいいのではないかと思っています。

鈴木 グローバルサプライチェーンの発想ですね。また、グローバルなエコシステムということで言えば、これまでの日本の半導体メーカーは、例えば自らの会社は総合電気メーカーであり、自社製品のために半導体を作るというのが主流でした。しかも日本の複数の会社がそれぞれに半導体の工場を持ち、バラバラに半導体を作っていくという考え方だったと思います。一時は日本が世界シェアトップだったように、このやり方でよかった時代もありましたが、その後、段々とうまく行かなくなり、日本の半導体製造は存在感を失いました。どこに問題があったとお考えになりますか?

小池 1980年代、90年代は日本の半導体が世界シェアのトップでした。それがうまく行かなくなった理由には、二点あると思っています。

 一つ目は、驕りです。やはり自分の力を過信しすぎて、何でも自分でできると思ってしまったのですが、これは世界に通用しない考え方でした。

 二つ目は、自分でできると思ったが故に、世界の動向や、どこと手を組んで何をすべきかという視点が欠けたことです。もともと驕りがあったところに、さらに業界全体のビジネスモデルが変化したわけです。

 世界で進む水平分業の流れに日本の半導体メーカーはついていけなかった。こういったことで、残念ながら日本の半導体は力を失っていったと思います。

鈴木 その水平分業の鍵になるのがファウンドリーという考え方です。これはTSMCの創業者、モリス・チャンが作り出したもので、各社が上から下までそれぞれ自分でやるのではなく、製造だけ、設計だけなど一部に特化した企業がそれぞれの作業を引き受け、TSMCのようなファウンドリー企業は発注者の注文通りの半導体を作る、という手法です。

 TSMCと同様、ラピダスもファウンドリー企業ということになると思いますが、気になるのは「誰がラピダスに半導体を発注するのか」という点です。

「製造に特化」を超える発想を持つ

小池 ファウンドリーというと製造に特化する、とにかくお客様のオーダー通り作るという考えが多いのですが、うちは少し違うんですね。やはりグローバルなエコシステムを作る上においては、世界中のパートナーを味方にしなければいけない。世界中の一流の研究所、大学、企業などのパートナーと手を組んでいく必要があります。

 すでにラピダスは、半導体製造装置会社のアプライド・マテリアルズやラムリサーチ、回路設計のIPベンダーであるケイデンスやCPU設計IPを提供する企業のアームなどと組んでいます。また、例えばEDA(設計作業の自動化支援)の会社としてはシーメンスやシノプシスなど世界の一流と連携します。そうした企業に私がただ「ラピダスを入れてください」と言ったって、当然そう簡単には聞いてもらえません。「ラピダスには何ができるんだ、特徴は何だ」となるわけです。

 そこで私は3年以上にわたって、様々な会社や組織に対して、ラピダスの強みを熱心に説明して回りました。特にスピードはラピダスの命であり、最新の搬送装置を導入し、製造までの世界一のスピードを実証しつつあります。例えば半導体製造の前工程は、量産の場合は通常、大体6カ月ぐらいかかる。とにかく急ぐ特急品と言われるものでも、大体1.5 カ月ぐらいかかると言われています。

 その中で、我々は実に2週間で作れることを実証しました。これに世界が驚いたんです。パートナーとなる相手には従前からこの話をしていましたから、むしろ相手の方から「一緒にやりましょう」と声をかけてくれました。単なるファウンドリーではなく、グローバルなエコシステムを構築することで、勝負ができる形になっていったのです。

鈴木 エコシステムという考え方は半導体の世界ではかなり重要です。技術を持っている会社、人材を供給してくれる組織があり、そのシステムの中で人や技術が動き、お互いが助け合いながら一つの製品を製造するメカニズムが出来上がる。

 TSMCはこのエコシステムが台湾内部に閉じていることに一つの特徴があります。台湾は優れた半導体人材を抱えていて、24時間働くという社員が一つのエコシステムを形成しています。ただ、これがグローバルなエコシステムになった場合には、お互いに文化も考え方も、言葉も違いますよね。TSMCは確かに一流の技術を持っていますが、エコシステムがサステナブル(持続性のある)なのかは気になるところです。

小池 私もTSMCは、現状で唯一、最先端の半導体を作ることのできる会社だと思っています。しかし鈴木先生のおっしゃるように、やはり台湾に閉じているリスクは高いんですね。これにはいろいろな観点がありますが、最も大きいのが鈴木先生のご専門である「地経学的リスク」です。何か有事が起きてしまった場合、半導体供給にどう影響するのか。これはTSMCの顧客も強い不安を感じています。

 現在製造されている最先端の半導体の90%以上をTSMCが手掛けています。このままいくと何かあった場合には世界中が困ることになりますし、TSMC自身もセカンドベンダーを期待しているところはあるでしょう。そういった意味で、共存できると考えています。

鈴木 また、どの国も抱えている大きな課題が人材確保です。TSMCも台湾での製造能力増強に加え、米アリゾナやドイツのドレスデンに工場を作る計画がありますし、サムスンやインテルなども新しい工場を作っています。半導体人材は需要があるけれども供給が限られているのが現実で、その中でラピダスがどの程度、人材を確保できるのか。どのように人材確保を確実なものにしていこうとお考えでしょうか。

小池 やはり人材は命です。人材がいなければ何も始まりませんから、人材の「確保」だけでなく、「育成」を真剣に考えています。ラピダスは日本国内でも大学をはじめ様々な組織と連携を取っていますが、国内に閉じず、グローバルに世界の大学などとも手を組まなければなりません。ラピダスは今ここに力を入れています。

 将来的には、例えば日米間を学生が行き来し、学生が半導体でPh.Dを取得できるような仕組みを作ってみたい。世界から貴重な人材を育て、集められるよう、力を注いでいます。

「北海道バレー」が拓く「地域のエコシステム」の可能性

鈴木 我々も先日、半導体工場が集積しているアリゾナに調査に行きました。アリゾナでは、アリゾナ州立大学などの各大学が人材供給のための教育に取り組んでいます。その際に重要になるのがやはり官民学の連携です。となると、ある種の地理的な関係も重要になってきます。ラピダスは北海道にありますが、そうしたエコシステムを作れる環境なのでしょうか。

小池 シリコンバレーはイノベーションの泉ですが、私もシリコンバレーに似たような発想が必要だと思い、ラピダスを北海道に作りました。理由は二つあって、一つは広大な自然があり、拡張性があることです。工場や研究施設をどんどん作れるような場所は、本州にはなかなかありません。

 もう一つは、やはり人材確保との関係で、そのためにはふさわしい場所が必要だという点です。どの国から来るにしても、そこで暮らす以上は自分の人生を賭けるにふさわしい環境が必要です。その点、北海道は最適で、豊かな自然があり、食べ物もおいしい。

 だから北海道で、シリコンバレーに負けないような「北海道バレー」を作ろうと。そのためにはわれわれだけで完結した取り組みではなく、いろいろな企業、組織、地域が連携する必要があります。それぞれの特徴を際立たせて、産業と掛け合わせていけば、「北海道バレー」と呼ぶにふさわしい地域のエコシステムに成長していくのではないかと考えています。

鈴木 私も北海道大学に在籍していましたから、北海道には12年間、住んでいました。スキー場もあり、食事もおいしい。外国の方々が住むにしても、ラピダスが進出した千歳には新千歳空港があり、世界のあちこちと行き来しやすい。

 苫小牧には工業地帯があり、港もある。畜産業が盛んな恵庭市は先端産業の集積地ではありませんでしたが、ラピダスの千歳市への進出を機に、隣接地域として重要度が増している。北海道全体で見ても、千歳には千歳科学技術大学があり、北海道大学、室蘭工業大学などがあることから、北海道内でのエコシステムの構築もやりやすい環境にあります。

 ラピダスが北海道に工場を作ると、その周囲に半導体材料やガスなど製造に必要なものを供給するサプライヤーも必要になりますね。

小池 ラピダスを中心に、世界中からさまざまな研究機関や装置・材料のメーカーが集まることが重要だと思っています。まだ最終決定はしていませんが、政府の方々とは「ラピダスパーク」構想について相談しています。工場を中心に研究機関やメーカーが集まり、将来的には半導体技術やその応用技術までを研究できるようにしようと。その動きを、まさに今始めたところです。

鈴木 これは非常に重要なポイントですね。地経学からの話をすると、アメリカではバイデン政権がCHIPS法を作り、アメリカに工場を作れば補助金が出るという制度を始めています。日本企業であれ、どこであれ、アメリカで作ることが重要なのだ、と。

 どの国で半導体を作るか、という時にその場所自体が魅力的で、人が集まるような環境でなければならない。自前主義だった時代は日本のメーカーを重視する、オールジャパンの発想が必要だというところに焦点を当てていたのですが、今はそうではなく世界のどの企業、どの国の人材であるかを問わず日本にやってきて、そこで半導体を作ることが重要になっています。これがまさに地経学の発想です。

産業空洞化の躓きを繰り返さない

小池 おっしゃる通り、従来の発想は大きく変わりつつあると思います。我々もかつて世界に出ていこうと思った時に、肝心な国内のことを忘れて産業が空洞化してしまった。これではダメだということで、コアとなるものは自国に残しつつ、各国とお互いに手を取り合ってお互いの強みを生かしていくことが極めて重要です。

 日本のものづくりは、世界に負けない力があると思います。これは決して忘れてはなりません。この強みを生かして、お互いに得意なところ、強みを生かして、パートナーシップを築いていく必要があります。

鈴木 その強みがあるからこそ、日本は世界で不可欠な存在になれる。他の国ではできないようなこと、例えば製造装置を作ることができる。日本の「匠の技術」は、やはり武器になる。だからこそ、日本で作ることに意味がある。アメリカは得意な設計に特化していった結果、製造業が空洞化してしまった。そこでトランプのアメリカは製造業を取り戻すために関税をかけているわけですね。

 ただ、例えばNVIDIAなどが設計した半導体をTSMCが製造しても、TSMCはアメリカに輸出する際に関税がかかる。それが嫌ならアメリカに工場を作れというのがトランプ政権の理屈です。こうしたトランプ政権の関税戦略は、ラピダスの経営にとってもマイナスになりかねないと思います。この点、どのようにお考えですか。

小池 確かに重要な問題なのですが、一つ幸運なのは、2027年度から量産に入るラピダスには、まだ少し時間があることです。この間にいろいろな作戦を練りたいと思っています。

 また、肝心なのは自国に優れた技術、最終製品がなければならない点です。最終製品の製造には優れた技術が必要で、ラピダスは得意な製造技術に特化する。アメリカとしても、自分が得意なところに特化する。その方が最終的に得をするということにも気づく。時間はかかるかもしれませんが、そこでバランスを取ることが必ずできると考えています。

鈴木 今や半導体製造において国際的な水平分業は常識になっていて、いくら引き戻そうとしてもできるものではない。そうした現状を把握することも重要ですね。

 アメリカで言えば、トランプ大統領は10月30日に習近平国家主席と米中首脳会談を行い、少なくともこれまでの対立が若干緩和しそうです。8月には対中輸出規制の対象だったNVIDIAのH20という半導体も輸出が認められました。地経学から国際関係を考えるうえで、米中はものすごく重要なプレイヤーです。両国ともそれぞれ社会システムが違う中で、しかしともにAIを発展させていっている。

小池 半導体を狭い世界でとらえるのではなく、「地経学」の観点からより広い世界、広い視点に立って考えてみたいと思っています。本日はありがとうございました。

 

◎小池淳義(こいけ・あつよし)

ラピダス社長兼CEO 1952年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、日立製作所に入社。東北大学大学院工学研究科電子工学専攻・工学博士号取得。トレセンティテクノロジーズ取締役生産技術本部長、同社取締役社長、ルネサステクノロジ技師長、サンディスク日本法人代表取締役社長、HGSTジャパン代表取締役、ウエスタンデジタルジャパン代表取締役を経て、2022年にRapidusを設立。著書に『シンギュラリティの衝撃』(PHP研究所)がある。

 

◎鈴木一人(すずき・かずと)

東京大学公共政策大学院教授、国際文化会館「地経学研究所(IOG)」所長 1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授、北海道大学公共政策大学院教授を経て、2020年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書に『地経学とは何か-経済が武器化する時代の戦略思考-』(新潮選書)、『資源と経済の世界地図』(PHP研究所)、Policy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、編・共著に『米中の経済安全保障戦略』『バイデンのアメリカ』『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』『ウクライナ戦争と米中対立』など多数。

 

 

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