好きと嫌いにかかわらず、目の離せない人物というのが世の中にはいる。イメルダ・マルコスもその一人。一九八六年「ピープルズ・パワー」で国を追われるまで二十年間、フィリピン大統領夫人として権勢を振るった伝説の女帝である。九一年に亡命先のハワイから帰国し、今年七月二日、八十歳になった。 ドキュメンタリー映画「イメルダ」は、その強烈な個性に寄り添い、イメルダとは何者であったのか、いったい何を考えていたのか、彼女自身の姿と言葉で語らせた秀作である。「戒厳令(七二年布告)の子供」世代を自任する六二年生まれのラモーナ・ディアス監督にとってイメルダとは「常に新聞の一面でその動静が報じられる」雲の上の人だった。初めて話したのは、「ピープルズ・パワー」における女性の役割を修士論文にまとめるために取材を申し込んだ時だった。五分の予定だった面会時間は四時間を超えた。「強烈な個性と圧倒的な存在感だった。メディアで見る人に会うと実像は普通の人のことが多いけれど、イメルダは違った。生身の方が大きな存在だった。それを映像で捉えたいと考えたのです」。ディアス監督は映画製作の動機をこう語る。「人生そのものがパフォーマンス」のようなイメルダは、彼女の映画を作りたいという申し出を快諾。九八年には六週間にわたって、私邸や故郷での密着取材を許し、その後も数回のインタビューに応じた。

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