エネルギー施設を狙ったロシアのミサイル・ドローン攻撃は2025年の1年間で612回に上った[電力インフラへの攻撃で起きた4日間の停電の中、「レジリエンス・センター」で電子機器を充電する人々=2025年12月30日、ウクライナ・ビシュホロド](C)AFP=時事

 

電力・エネルギーインフラ狙い撃ちに伴う停電多発

 ロシアは、2022年10月10日のウクライナ全土に対する一斉攻撃以降、ミサイルやドローンでウクライナの電力とエネルギーインフラを狙い撃ちするようになった。それからわずか9日後の10月19日には、同国の発電能力の40%が失われてしまい、計画停電を導入せざるを得なくなっている。ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、11月3日、「ロシアは戦場でウクライナを打ち負かせないでいるため、このような方法でウクライナ国民の意志を挫こうとしている」と相次ぐ大規模な攻撃を批判した。

 欧州連合(EU)の見積もりでは、2024年9月までに火力発電能力の80%が失われてしまった。ウクライナ大手電力会社「DTEK」は、軍事侵攻以降から3年が経過した2025年2月25日までに、壊された発電所や電力網などの修理を何と1万6001回行っている。壊されては修理するという心の折れるような作業の連続だ。国連開発計画が取りまとめたエネルギー業種の想定被害額は、2024年12月時点でウクライナのGDP(国内総生産)の11%相当に達した。

 2025年以降もロシアの攻撃は続き、ウクライナのエネルギー省によると、2025年にエネルギー施設を狙ったミサイル・ドローン攻撃が612回行われている。しかも、ロシアは大量のミサイルとカメラ搭載のドローンを使って攻撃し、ウクライナ側の防空を圧倒している。2026年1月24日の攻撃では、計396ものミサイルとドローンが使われた。全てを撃ち落とすことはできない。

 2025年10月は寒冷期に暖房を使えなくするためか、特にガス生産施設が狙われるようになった。ウクライナ国営の石油・ガス会社「ナフトガス」のガス生産施設は10月だけで7回の攻撃を受けた。10月半ばまでにウクライナのガス生産能力の60%が失われたと見られる。

キーウでは電力事情悪化で市民に退去勧告

 2025年10月から2026年1月までのわずか3カ月間に、戦争前の発電能力の15%相当が破壊されてしまった。2025年12月時点でウクライナの多くの地域では、1日に16時間以上の計画停電が導入されている。

 ウクライナは2025年末から2026年2月にかけて、この20年で最も厳しい冬を迎えている。2026年1月下旬時点で最低気温はマイナス16℃にまで下がった。こうした中での、長時間の計画停電だ。保健省の発表では、2025年12月から2026年1月にかけて凍傷や低体温症で病院に搬送された人の数は1000人を上回った。

 電力の逼迫に伴い、2025年12月9日、ユリヤ・スビリデンコ首相は、計画停電の対象除外となる施設を減らすと発表した。例えば、街灯や宣伝用の電飾などは優先されるべきものと見なされていない。病院、学校、重要施設、防衛産業に対しては、引き続き電力が供給される。

 さらに2026年1月9日には、キーウのビタリ・クリチコ市長が苦渋の決断を下し、市民に一時的に市を離れるよう勧告、軍事侵攻前の人口の2割に相当する60万人が避難した。

 ウクライナの人々は、電力の供給が再開した時に合わせて生活せざるを得ない。料理、シャワー、洗濯、機器の充電などを急いで済ませる。都市部の高層住宅に住む人々の一部は、お金を出し合ってエレベーター用の発電機と燃料を確保している。しかし、年金生活の高齢者や障害者を抱える家庭はそれだけの財力がなく、外出も、空襲警報が鳴ってからの防空壕への避難もできない。

 ガスストーブを使う家庭もあるが、一酸化炭素中毒で亡くなってしまう人々も出ている。高齢者が多いという。

家具売り場スペースや食料品店でテレワーク

 あまりに停電が多発するため、ウクライナの人々は創意工夫を凝らし、テレワークできる場所を増やしていった。例えば、2023年1月11日付の米ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、キーウ市内のデパート「エピセンター」は、3階にある家具売り場スペースを改造し、無料のコワーキングスペースを設けた。コーヒーマシーンとインターネットも無料で使える。

 また、食料品店の中には、ソファーや延長コードを置いて、働けるスペースを提供するところも出てきた。また、無料でインターネットに接続して働けることを宣伝する駐車場もあるという。

 キーウの地下鉄の駅は、旧ソ連時代に北大西洋条約機構(NATO)からの攻撃にも耐え得る防空壕としての役割も担えるよう設計されており、10万人収容できる。軍事侵攻以降、多くのキーウ市民が避難してきた。2022年3月2日時点で、1万5000人の市民がキーウの地下鉄の駅に身を寄せている。

 身分証を見せれば、人々は無料で駅の構内に逃げ込める。インターネット、飲料水、トイレは無料で使え、電子機器の充電も可能だ。そのため、避難しつつ、ノートパソコンを開いてテレワークする人々の姿は、キーウの地下鉄でよく見られるようになった。

 ただ、キーウが完全に停電してしまうと、地下鉄の運行も止まる。例えば、2026年1月31日には停電のため、キーウ地下鉄が数時間完全に機能を停止してしまった。

柔軟な働き方のできるIT業界にも停電の影響

 ウクライナ経済の8.3%を占めているIT業界は、当初、他の業種よりも停電の影響が小さかった。IT業種の人々は、新型コロナウイルスの感染拡大時期にテレワークに移行、他業種よりも柔軟な働き方が許されており、ノートパソコンとインターネットさえあれば、どこからでも働けるからだ。実は、ウクライナからのITサービスの輸出額は、2022年前半に前年比で23%伸びている。

 しかし、2022年秋以降、ロシアによる電力・エネルギーインフラへの攻撃で停電が多発するようになると、IT業界で働く人々の仕事にも打撃が及ぶようになった。

 ウクライナのバーチャル・ラーニング企業「ELVTR」で役員秘書として働くクセニーアは、ウクライナ東部の小さな町で両親と同居しているが、同年11月下旬時点で、1日に3時間くらいしか電気が使えない。その前の週は月曜日から木曜日までの4日間、電気も暖房も水道も使えない状態だった。金曜日になって電力が午前2時から4時だけ再開したため、徹夜でやるべきことを必死になって終わらせたという。

 電気が使える時の一番の優先事項は、家に備えているモバイルバッテリー8台の充電と、できる限りの仕事を集中して終わらせることだ。「タイムマネジメントの本をかなり読んでいるが、このような状況に対処する方法を教えてくれた本はない」と彼女はこぼす。

停電で失職したIT人材は2%

 電力供給の逼迫する冬季に、従業員が国外に避難できるよう、引越し費用や国外の住居費の負担を含め、支援しているIT企業もある。

 ウクライナ国内のIT企業は、停電に備えて、複数のディーゼル発電機やスターリンク端末をオフィスに設置した他、複数の独立系インターネット・サービス事業者にも加入している。一部の企業は、従業員の要請に応じて、ポータブル電源やスターリンク端末を従業員の自宅に送付した。

 ただ柔軟な働き方が許されるIT業界でさえ、戦争の長期化につれ、停電の影響はさらに大きくなっているようだ。2023年2月、ウクライナのIT人材が使う主要ポータルサイト「DOU」が、ウクライナ国内に住む1万1587人のIT人材にアンケート調査をしたところ、75%が停電の影響を経験している。停電の影響の程度は、どこに住んでいるかによって異なるが、西部の方が比較的少ない。停電により、取り組んでいるプロジェクトの数や収入が大幅に減ったと答えたIT人材は9%、失職した人は2%いた。2023年当時、ウクライナの失業率は17.4%である。

 また、多くのIT人材は停電時も収入を維持できているものの、停電に備えた機材の購入やコワーキングスペースのレンタルなどでコストがかさんでいる。

テレワークできないスーパーマーケット

 一方、このように働く時間をある程度自分で選べる柔軟な働き方ができない職種もある。東部ドニプロに住むヴィクトリアは、住んでいるアパートで頻繁に予定外の停電が発生し、その度にWi-Fiが使えなくなるため、英語の通訳の仕事を失ってしまったという。

 また、スーパーマーケットや食料品店、レストラン、ショッピングモールのようにテレワークができない職種もある。停電時にどのサービスは提供し続けられるのか、来店者はどの店にやって来るのか分析しなければならないが、状況は各店によって大きく異なる。

 例えば、大手スーパーチェーン「シルポ」は、2022年12月上旬時点で300店舗中85店舗にしかディーゼル発電機がなかった。電力供給が再開されるまで閉店になり、パンも焼けなかった。発電機がある店舗であっても、どの程度発電できるかによって、冷蔵状況が変わってくるため、稼働レベルが変わってくる。

 当時、シルポは12月末までに6割に当たる179店舗、1月末までに95%に当たる285店舗にディーゼル発電機を備える計画を立てている。

 さらにシルポは、ホームページにインタラクティブマップを掲載し、どの店舗が停電中でも開店しているのか、どの店舗では代替となる発電ができず閉店しているのか、来店者に分かりやすい情報発信をするようになった。各店舗で勤務している従業員がリアルタイムで情報を更新している。また、顧客の家が停電になっていても、オンラインストアで注文した品物を家まで配達するサービスにも力を入れるようになっている。

 ただ、停電であっても業務を続けるのが、従業員にとって物理的にも心理的にも大きな負担になっていることは、シルポの経営層も理解している。また、発電機、スターリンク、燃料のコストも、経営に重くのしかかる。経営層は当初予想していなかったが、多くの従業員が個人用機器を充電する必要があることが判明し、慌てて追加で専用の発電機を調達しなければならなくなった。

住民のために業務と修理を続ける電力会社

 拙著『ウクライナ企業の死闘』(産経新聞出版)で詳述したが、電力会社やエネルギー会社の従業員たちは、住民が残っている限り、業務を続け、ロシア軍に破壊されたインフラの修理・復旧を続けている。

 しかも、ミサイルやドローン攻撃が始まっても、必ずしも全員がコントロール室から退避できる訳ではない。2026年1月26日付の米CNNの取材に答えたエネルギー会社の従業員のオレクサンドル・アダメンコによると、コントロールパネルの監視と調整のため、少なくとも2人は残る必要がある。

 攻撃が始まると、ヘルメットと防弾チョッキを身につけ、分厚い鉄製の樽型カプセルにこもって、コントロールパネルの監視を続けるという。このカプセルの周りには、土嚢が積み重ねられ、ミサイルやドローンの破片であれば、中に入った従業員の身体を守れるようにしている。だが、ミサイルやドローンが直撃すれば、ひとたまりもない。

 修理作業も命懸けだ。国営の送電会社「ウクルエネルゴ」は、ロシア軍がベテラン修理作業員を狙っていると指摘する。それ故、修理作業員たちには、空襲警報が鳴り響いている間、防空壕への避難を義務付けている。

 また、凍てつく冬の寒さも修理作業員たちにとって悩みの種だ。先述の大手電力会社「DTEK」によれば、作業員たちは30〜40分ごとに休憩を取って、手足を温めるようにしている。

 DTEKは、キーウ市内だけでも60の修理作業チームを展開させているが、2026年1月下旬、それだけでは足りなくなり、他の地域からさらに12チームが駆けつけた。

 

松原実穂子『ウクライナ企業の死闘』(産経新聞出版)
  • ◎松原実穂子(まつばら・みほこ)

NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト。早稲田大学卒業後、防衛省勤務。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で修士号取得。NTTでサイバーセキュリティに関する対外発信を担当。著書に『サイバーセキュリティ 組織を脅威から守る戦略・人材・インテリジェンス』(新潮社、大川出版賞受賞)、『ウクライナのサイバー戦争』(新潮新書、サイバーセキュリティアワード書籍部門優秀賞)。近著に『ウクライナ企業の死闘』(産経新聞出版)。

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