AfD「極右政党指定」をめぐり捜査機関が「敗訴」した理由
2月26日にケルン行政裁判所が下した仮処分決定は、ドイツ政界に強い衝撃を与えた。同裁判所は、連邦内務省の連邦憲法擁護庁に対し、右翼ポピュリスト政党AfDを極右政党に指定することを当面禁止した。
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「極右政党」指定を当面禁止
ケルン行政裁判所は今回、右翼ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)が2025年5月5日に連邦憲法擁護庁を相手取って提起した行政訴訟と仮処分申請の内、仮処分申請についてAfD側に軍配を上げた。
連邦憲法擁護庁は2025年5月2日に、AfDをgesichert rechtsextremistischつまり「確定的に極右的性格を持つ団体」に指定した。この指定を受けた団体に対しては、連邦憲法擁護庁は通信を盗聴したり、スパイを送り込んで情報収集を行ったりできるようになる。だが今回の仮処分決定により、連邦憲法擁護庁はAfDを確定的に極右的性格を持つ団体と呼ぶことを禁じられた。
ただし今回の決定は確定したものではなく、あくまでも仮処分申請に関するものだ。つまり本訴訟の判決が下るまでは、連邦憲法擁護庁はAfDを「極右政党の疑いがある政党」と呼ぶことを余儀なくされた。行政裁判所がいつ本訴訟の判決を下すかはわかっていない。
AfDのアリス・ヴァイデル共同党首は2月26日、「今回の決定は我々だけではなく民主主義にとっても大きな勝利だ。裁判所はAfDを禁止しようとする勢力に対しても、警告を発したことになる」と述べ「勝訴宣言」を行った。
日本にはない「憲法擁護庁」とは
憲法擁護庁(Amt für Verfassungsschutz)は日本にはない捜査機関なので、簡単に解説する。憲法擁護庁は、国内を対象とする諜報機関だ。同庁は極右団体、極左団体、イスラム・テロ組織、外国のスパイなど、憲法に基づくドイツの民主主義体制の変更、転覆、破壊などを目指す勢力に対する捜査を行う。
連邦内務省に属する連邦憲法擁護庁の他に、16の州政府の内務省に属する州憲法擁護庁がある。警察とは異なり、逮捕や家宅捜索を行う権限はないが、裁判所の許可を得て、極右団体やテロ組織にスパイを送り込んだり、電話の通話内容の傍受をしたりするなど、隠密性・秘匿性が高い情報収集活動を行う。
憲法擁護庁は、1950年に西ドイツで創設された。第二次世界大戦後の西ドイツは、旧連合軍政府の管理下にあった。憲法擁護庁を創設するよう西ドイツ政府に命じたのは米国政府で、西ドイツ国内の共産党員を監視することが当時の主な目的だった。東西冷戦時代の欧州では、西ドイツの共産党員がソ連に協力していると考えられたからだ。
「個別事例では全体の違憲性を証明できない」との理由
ケルン行政裁判所が連邦憲法擁護庁による極右団体指定を禁じた理由は、同庁の捜査員たちが、「AfD全体が極右的な性格を持っている」という主張を立証できなかったからだ。
憲法擁護庁は、5月2日にAfDを極右団体と指定した際に、1000頁を超える鑑定報告書を作成していた。この鑑定報告書には、AfD党員の排外主義、人種差別的な発言が多数記載されていた。
しかしケルン行政裁判所は、仮処分申請の決定理由の中で「AfDの中には、民主的秩序に挑戦する傾向が生まれつつあることを示す確実な傾向が見られる。しかしこうした傾向は、AfDが党全体として憲法に反する性格を持っていると結論付けるには十分とは言えない」と述べている。
つまり、裁判官たちは、AfDの党員や幹部が非民主的な発言を行っていることは事実だが、だからといって党全体が憲法に基づく民主主義体制の打破や変更を目指しているとは言えないと主張したのだ。
連邦憲法擁護庁の鑑定報告書は、AfD党員らの差別的な発言約350件を引用した。たとえば同党の党員ハンネス・グナウック連邦議会議員は、2024年8月に旧東ドイツのツォッセンで行った演説の中で、「我々は、誰がドイツに属し、誰が属さないかを決める権利を持つべきだ。ドイツ人であるためには、帰化証明書以上の物が必要だ」と述べた。つまり外国人がドイツのパスポートを取得しただけでは、ドイツ人と見なさないというのだ。
また連邦憲法擁護庁は、AfD党員のブランデンブルク州議会議員デニス・ホーロッホ氏の2024年8月の発言も、AfDが人間の尊厳を軽視している表れと見ている。彼は、「多文化主義は、伝統やアイデンティティ、祖国の喪失、殺人、強盗、集団レイプを意味する」と語った。
ヴァイデル氏自身も全ての外国人が犯罪者であるかのように見なす発言を行ったことがある。ヴァイデル氏は2024年9月に、「ドイツでは複数の男性によるレイプなどの犯罪が多発している。我々がドイツの路上で経験しているのは、(イスラム教徒による)ジハード(聖戦)だ。(イスラム教徒が)ドイツ国民に対して信仰をめぐる戦争をしかけている。我々が政権に参加した暁には、こうした犯罪者を国外追放する」と述べた。
憲法擁護庁は「出自・人種による差別」を違憲と判断
連邦憲法擁護庁は鑑定報告書の中で、「AfDの『国民』の定義は、人種や民族などの出自だ」と説明した。これは、「いわゆるドイツ人の血を引く白人だけが、ドイツ人と見なされる」という意味だ。連邦憲法擁護庁は、「この考えは、今日の民主的なドイツ社会の、国民に関する定義とは相容れない。多くの党員が、人間の尊厳を無視する思想に染まっている。そしてAfDは、一部の国民に対して他の国民とは同じ権利を与えず、社会から締め出そうと考えている」と説明した。
連邦憲法擁護庁は、「AfDは白人のドイツ人だけをドイツ国民と見なす純血思想を持ち、欧州の外からやって来てドイツに帰化した移民をドイツ国民と見なさない」と解釈した。
連邦憲法擁護庁は「たとえばAfDは、イスラム教国からドイツに移住してドイツ国籍を取った市民を、ドイツ人とは見なさない。このことは、AfD幹部たちの発言から明らかだ」と指摘する。つまり連邦憲法擁護庁は「AfDは、イランやシリア、アフガニスタンなどからドイツに移住して帰化した市民をドイツ人と見なすことを拒否する」と言っている。
これはドイツの憲法とは相容れない思想だ。連邦憲法擁護庁は、AfDのこの思想を「民族的国家主義(völkischer Nationalismus)」と呼ぶ。つまり国家への帰属性の根拠を、「血」に限定する考え方だ。
ドイツの法律によれば、この国の法律や規則、慣習を守り、男女同権、人権尊重、差別禁止、言論の自由などの価値を尊重し、税金や社会保険料などを納める外国人は、ドイツの滞在許可を得てから5年が経過した後、語学や地理、文化などに関する試験に合格すれば、この国に帰化することができる。その際には憲法や民主主義を尊重することは求められるが、民族、人種、宗教、出自は問われない。日本人でも、中国人でもアフガニスタン人でも、この国の法律を守れば、ドイツ人になることができる。AfDは、こうした常識を、覆すことを目指している。
ただしケルン行政裁判所は、「AfDの個々の党員の発言だけでは、党全体が憲法を否定しようとしていると判断するには十分ではない」と主張しているのだ。
また憲法擁護庁は、「AfDは、ドイツに住む外国人だけではなく、この国に帰化した外国人も含めて数百万人の移民系市民を国外に追放する『再移住(Remigration)』計画を持っている。人種や出自だけで市民を追放することは、憲法に違反する。出自だけで、一部のドイツ人に『劣ったドイツ人』という烙印を押すのは、民主主義の原則に反する」と主張した。だがケルン行政裁判所は、「AfDの再移住というコンセプトは曖昧であり、同党の具体的な政治目標と見なすことはできない」として、連邦憲法擁護庁の主張を退けた。
連邦憲法擁護庁は、「AfDが2025年の連邦議会選挙のマニフェストの中で、ドイツでのイスラム教寺院の尖塔の建設や、イスラム教徒に礼拝を呼びかけるムアッズィンの呼びかけの禁止を提案したことは、人間の尊厳の重視を明記した憲法に違反する」と指摘。AfDがイスラム教徒の女性に対して、学校など公共の場所で頭をスカーフなどで覆うことを禁止することを要求していることも、イスラム教徒に対する差別を意味すると主張した。
だがケルン行政裁判所は、「これらのAfDの要求は、社会の少数派だけに特定の行為の禁止を求めるものであり、イスラム教徒の尊厳を傷つける疑いがある。しかしこれは個別の要求であり、AfD全体が憲法に抵触することを証明するには十分ではない」と反論した。
つまり裁判官たちは、AfDの個別の発言や提案だけでは、同党全体の違憲性を証明するには十分ではないと主張したのだ。
1000頁を超える鑑定書を準備したにもかかわらず、ケルン行政裁判所で敗訴した連邦憲法擁護庁の捜査員たちは、強いショックを受けたと伝えられる。
党全体と支部レベルで「格差」
この仮処分決定は、AfDをめぐって奇妙な状況を生んだ。それは、一部の州の内務省の州憲法擁護庁が、すでに一部のAfDの州支部を「確定的に極右団体の性格を持つ団体」と指定し、訴訟の結果その指定が確定しているからだ。
たとえば2021年3月以降、テューリンゲン州、ブランデンブルク州、ニーダーザクセン州など5つの州の憲法擁護庁がそれぞれの州のAfD支部を「確定的に極右的な性格を持つ政党」に指定した。AfDの各支部はこの指定を不服として行政訴訟・仮処分申請を提起したが、2州で敗訴。3州では現在も係争中だ。
さらに連邦憲法擁護庁は、2020年3月にAfD内部の「翼」という組織を「確定的に極右的な性格を持つ団体」に指定し、解散に追い込んだ。また2023年4月には連邦憲法擁護庁がAfD青年部(JA)を「確定的に極右的な性格を持つ団体」に指定したため、JAは解散し、2025年11月に「ドイツの世代(GD)」という新しい青年組織が作られた。
つまり党全体を「極右政党」と呼ぶことは禁じられているが、一部の州支部は「極右団体」と呼んでもよいという、ちぐはぐな状態が生まれている。
SPDや緑の党による「AfD禁止申請」にも大きな影響
ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、3月4日付紙面の社説で「今回の決定はAfDに対する社会の見方を変える可能性がある。捜査機関が、AfDを極右政党と指定するためのハードルすら越えられないのならば、AfDを禁止するための法廷闘争では、さらに高いハードルが設定されるのではないだろうか?」と指摘している。同紙は、法律論争によって政党を禁止しようとする動きに、大きな疑問符を提示した。
メインの訴訟の判決が下っていないので、今回の決定はまだ確定していない。しかし今回の決定がAfD禁止を目指す社会民主党(SPD)と緑の党にとって、大きな後退を意味することは間違いない。
両党は「AfDは憲法に基づく民主主義体制の破壊を目指している」と主張し、連邦憲法裁判所に将来申請を提出して同党を禁止させるための準備作業を進めている。
緑の党でAfD禁止のためのプロジェクトを進めているティル・シュテフェン連邦議会議員は、「ケルン行政裁判所の裁判官たちは、AfD党員たちの個々の発言や行為が持つ意味を、体系的に分析しなかった」と批判した。シュテフェン議員は、「しかし連邦憲法裁判所の裁判官たちは、AfD禁止申請の提出を受ければ、AfD党員たちの発言や行為の意味を深く分析して、党全体の違憲性を証明できると思う」と述べ、AfD禁止申請のための準備を続けることを明らかにした。
これに対して、フリードリヒ・メルツ首相が属するキリスト教民主同盟(CDU)では、多くの議員が連邦憲法裁判所にAfDを禁止させることに反対している。裁判所に過激政党を禁じさせるのではなく、政治的議論や政策論争によって闘うべきだという主張だ。ドイツの政党禁止の閾は高い。これまでドイツで禁止されたのは、ナチスの後継党・社会主義帝国党(SRP:1952年禁止)とドイツ共産党(KPD:1956年禁止)だけだ。
AfDの人気は、相変わらず高い。アレンスバッハ人口動態研究所が今年3月に発表した政党支持率調査によると、AfDへの支持率は24%と、CDU・CSU(27%)に次いで第2位。旧東ドイツの全ての州で、首位にある。ケルン行政裁判所の決定は、政党を法的な手段によって規制したり禁止したりすることの難しさを白日の下に曝した。
政党を裁判所の命令で禁止しても、政党を支える思想は生き残る。AfD関係者たちは名前を変えて別の政党を創設するかもしれない。結局のところ、伝統的政党が、政策とコミュニケーションによってAfD支持者たちの考えに影響を与える以外に、同党の躍進にブレーキをかけることは難しそうだ。
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