金融危機で加速するHSBCのアジア回帰

執筆者:八ツ井琢磨2009年10月号

 英植民地の香港を本拠に事業展開していた香港上海匯豊銀行が、英国にグループ持ち株会社HSBCホールディングスを発足させたのは一九九一年。香港が英国から中国に返還される六年前のことだ。九三年にはグループ本社を英国に移転。これと前後して欧米での事業買収を積極化し、世界有数の大銀行にのし上がった。一方、グループ全体に占めるアジア事業の利益の割合は二〇〇五年で三四%にまで低下した。 しかし昨今、HSBCにとってアジア事業の重要性が再び高まっている。北米で低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローンなどを手掛ける子会社が巨額損失を出し続け、既に八百カ所以上の支店閉鎖を余儀なくされたほか、欧州事業も金融危機で打撃を受ける一方、アジア事業の落ち込みは比較的小幅にとどまっているためだ。〇九年六月期中間決算ではアジア事業の利益が四十五億ドル(四千二百億円)と欧州(二十九億ドル)を大きく上回り、北米の損失三十七億ドルを埋め合わせた。 アジアでは香港事業が収益の柱だが、急成長しているのが中国事業だ。同決算の中国事業の利益は七億五千万ドルと香港事業(二十五億ドル)の三割の水準に達した。 HSBCは主に三つのルートから中国事業を展開している。主力は〇七年四月に設立した全額出資子会社「匯豊銀行(中国)」を通じた事業。本社を構える上海をはじめ国内二十都市に計八十九拠点を設けており、中国に進出した外資系銀行で最大の支店網を誇る。また、六二%を出資する香港銀行大手ハンセン銀行を通じた中国事業展開も行なっており、こちらは拠点数三十五。

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