水深約6000メートルの深海に埋蔵される「南鳥島レアアース泥」は、陸上の鉱山とはまったく違う技術で採掘する。精錬にしても同様だ。その実現には、どのような見通しが立っているのか。商業開発への課題とロードマップは――。(聞き手:関瑶子)

 長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、レアアース泥の掘削・精錬に向けた技術面の対応策や日本政府の取り組みについて、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター長の中村謙太郎氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。

採掘の“最適解”は「既存技術の組み合わせ」

——2013年に南鳥島周辺の排他的経済水域(以下、EEZ)海底で、レアアースを高濃度に含むレアアース泥が発見されました1。この採掘の技術的な難易度について教えてください。

「レアアース泥は、水深5500メートルから5800メートルの海底にあります。したがって、陸上のレアアース鉱山からの掘削とはまったく異なる技術が必要です。ただ、技術的に不可能かと言うと、必ずしもそうではありません」

「海底の土砂や資源を引き揚げる技術は、古くから存在します。例えば、港湾やダムなどの水深が比較的浅い水域において、底に堆積した土砂を取り除く作業は『浚渫(しゅんせつ)』と呼ばれ、インフラ維持のための土木技術として広く普及しています」

「また、海底や地中から物資を引き揚げるアプローチとして長年活用されてきたのが『エアリフト(ガスリフト)』技術です。これはパイプ内に空気を送り込み、発生する強力な上昇水流を利用して物質を吸い上げる仕組みで、古くから海底石油開発の現場で用いられてきました」

「さらにこの技術は液体だけでなく固体の引き揚げにも応用されており、1970年代には水深約5000メートルの深海底からマンガンノジュール2を海水と共に吸い上げる技術も確立されています」

「そのような既存の技術を組み合わせることで、レアアース泥も回収できると考えています。国も、経済産業省が2016年に公表した報告書3において、エアリフト技術および浚渫機械を用いた開発システムを『最適と考えられる生産システム』として検討を行っています」

「まったく新しい技術をゼロから開発する必要がない、という点が、レアアース泥開発のアドバンテージだと言えるでしょう」

——レアアース泥を回収した後の精錬プロセスについて教えてください。

「まず、レアアース泥からレアアース元素を溶かし出すリーチングという工程があります。多くの陸上レアアース鉱石では、濃硫酸焙焼や苛性ソーダ分解など、加熱を伴う強酸・強アルカリ処理が一般的です」

「一方、海底由来のレアアース泥の場合、常温常圧下で薄い塩酸や硫酸に浸すだけでほぼ100%のレアアースが溶液側に溶け出します。リーチングに関して、非常に低コストかつ、環境負荷の低い条件で実現できるという点が、レアアース泥の特徴です」

「リーチングの次の工程は、分離・精製です。レアアースは、イットリウム、ネオジム、ジスプロシウムなど17の元素の総称です。工業的利用に際しては、それぞれの元素に分離して、高純度に精製する必要があります。この工程は、陸上由来のレアアース鉱石でも、レアアース泥でも同様です。特に、新しい技術が必要というわけではありません」

「2017年に、私たちは、南鳥島周辺の日本のEEZのレアアース泥からレアアースをリーチング、分離・精製して、各元素の高純度精製物を得ることに成功しています。さらにそれを利用して、白色LEDおよび高輝度蓄光材を作るところまで実証しました4

「レアアース泥を精錬して原料として用い、実際に工業製品を作れることは、実験室レベルでは確認済みということです。あとは、産業規模へとスケールアップするだけと言えると思います」

海底の生態系に影響は?

——南鳥島レアアース泥の開発において、環境への影響に関する議論はありますか。

「レアアース泥の採掘に関しては、新しい資源ということもあり、現時点では国際的には議論は始まっていないと認識しています」

「ただ、レアアース泥はマンガンノジュールと存在している場所が類似しているため、採掘時の海底環境への影響はほぼ同じであると考えられます。したがって、マンガンノジュールに関する議論が参考になると思っています」

「マンガンノジュールに関しては、採掘時に泥が巻き上げられて、広く拡散してしまい、海底の生態系に広範囲にわたって影響を与えることが心配されています」

「ただ、それについては、採掘実験やシミュレーションによるデータが蓄積されつつあり、海底環境に及ぼす影響が定量的に明らかになってきています。現時点では、マンガンノジュールを20年間採掘することで海中に巻き上がる土煙が影響を及ぼす範囲は数キロから数十キロメートル程度、降り積もる泥の厚さも、数ミリメートルから数センチメートル程度と見積もられています」

「したがって、マンガンノジュールやレアアース泥の採掘が、海底の生態系に広範囲かつ重大な影響を与える可能性は低いと考えられます」

「とは言え、採掘した場所の環境が変わることは十分にあり得ます。そこで必要となるのが、生態系を維持するための保護区の設定です。つまり、開発しない場所をあらかじめ決めておく。そうすることで、採掘した場所の環境に多少の変化が生じても、開発後に元の状態に戻りやすくなると考えられます」

「このような保護区の発想は、マンガンノジュールの採掘において、既に議論が行われてきています」

“海底だからこそ”のメリットも

——海底資源だからこそ得られるメリットはありますか。

「陸上資源は、採掘している場所が人間の生活圏に近いため、鉱害のような人間が直接影響を被る環境問題が起こり得ます。鉱山から有毒物質が流れ出し、人間の食料である魚の生息域である海や川を汚染するようなことが、かつての日本でもありましたし、海外では今でも問題になっているところがあります」

「一方、深海の資源の場合は、人間の生活圏から遠く、人間の食料となる魚の生息域である浅海への水の移動も、河川と違って限られています。そのため、短期間で直接的な影響を及ぼすことはないと考えられます」

「また、陸上の資源では、違法採掘の問題もしばしば生じます。鉱害や人権侵害など資源開発に伴う深刻な問題の多くには、国の管理が及ばない違法採掘が関係しているとされます」

「一方、海底資源の場合はそのようなことが起こる可能性は極めて低いでしょう。本土から離れた南鳥島周辺海域において、6000メートル下の海底からレアアース泥を採掘するには、相当な設備と技術、そして資金が必要です。そのため、ボートで乗り付けてこっそり採掘するなどということは不可能です。海底資源は、政府が開発や採掘を管理しやすい、というメリットもあるのです」

2027年2月から最大350トン/日を採掘

——2026年2月には、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が小笠原・南鳥島沖の水深約6000メートルの海底からのレアアース泥の引き揚げに成功しました5

「これは、内閣府の『戦略的イノベーション創造プログラム(以下、SIP)』によるものです」

「SIPは、内閣府が主導する国家的な研究開発枠組みです。日本の成長戦略や社会課題の解決に直結する分野に対して、府省の枠を超えて集中的に資金を投入していくプログラムです。対象分野は、自動運転やエネルギー、量子技術など多岐にわたりますが、その一つに海洋資源も位置づけられています」

「レアアース泥についても、2018年以降、約400億円を投じてプロジェクトが進められており6、中国への過度な資源依存から脱却し、経済安全保障の鍵となる自国での安定した供給体制(国産化)を確立することを目指しているとされています」

——今後のSIPの予定や目標について教えてください。

「私はSIPの関係者ではないので報道されていること以上の情報は知りませんが、2026年2月のレアアース泥の引き上げは、採鉱システム接続試験という位置づけだと報道されています7

「採掘技術の実証としては、2027年2月から、1日あたり最大350トン規模のレアアース泥の採掘を行う予定とされています8。加えて同時並行で、分離・精製の技術試験や産業化への検討を進めるとも報道されています9

——南鳥島レアアース泥の商業化には、最短でどの程度かかると思いますか。

「私たち東京大学を中心とした研究グループでは、2016年の経済産業省の報告書で示されたような、既存の海底石油の技術や海洋浚渫の技術などを組み合わせて応用することで、5年以内に商業開発を開始したいと考えています」 (続く)

1 https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/archive/2013/20130321.pdf 

2 マンガンノジュール:水深4000〜6000メートルの深海底に広く分布する、球状の鉱物の塊。マンガンを主成分に、ニッケルやコバルト、銅など電池材料に不可欠な金属を豊富に含む。

3 https://www.jogmec.go.jp/news/release/release_00665.html 

4 https://www.t-borderislands.metro.tokyo.lg.jp/interview/interview25.html

5 https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20260202/ 

6 https://japannews.yomiuri.co.jp/politics/politics-government/20260202-308491/

7 https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20251223/ 

8 https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/kaiyo_wg/1kai/pdf/shiryo_other.pdf

9 https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240322001/20240322001-1rr.pdf

※2026年3月16日に収録

 

  • ◎中村謙太郎(なかむら・けんたろう)
  • 東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター長

1997年 山口大学理学部地質学鉱物科学科卒業。2004年 東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター助教、海洋研究開発機構研究員、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター准教授、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター教授などを経て、2024年より現職。2023年に「令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞」を受賞。主な研究テーマは、海底鉱物資源の探査、鉱物資源の成因解明、地球-生命の共進化プロセスの探求。

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