「最悪の時期は過ぎた。この十日間、全土は恵みの雨で潤った」。インドでは九月七日、気象庁長官がモンスーン(雨をもたらす季節風)の復調を宣言した。これを受けて、代表的な株価指数SENSEXが急騰し、一年三カ月ぶりに一万六〇〇〇ポイント台に戻した。 風が吹けば桶屋が儲かる式の迂遠な話にも聞こえるが、論理は単純明快だ。インドでは例年六―九月に雨量が増える。農業は必要な用水の六割をこの雨水に頼っているが、今年はモンスーンの降雨が大幅に減少。旱魃による不作が危惧されていた。 インドでは農業は国内総生産(GDP)の一八%を占める基幹産業。その不調は経済全体の足を強く引っ張る。人口の七割が農村に住み、労働人口も六割以上が農業従事者。不作は彼らの収入減に直結し、消費の減退や政治への不信にまでつながりかねない。 こうした懸念は六月以降、強まり始め、インフレ率がマイナスを記録し続ける中で食料品価格だけが上昇に転じるなど、直接的な影響も顕在化。マンモハン・シン首相は関係省庁に対策を要請したものの、八月に入ると、今年の経済成長率が当初の予想を割り込む可能性が国内外で語られるようになった。 だが、八月末から全土で降雨量が増加。農業にまつわる危惧や懸念が薄らいだことから、株価も上昇したというわけだ。

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