7日に実施されたイギリスの統一地方選は、与党・労働党が約6割の議席を失い、史上最悪とも評される大敗を喫しました。最大野党の保守党も大幅な議席減。代わって浮上したのが、まず前回の2議席から1400議席以上と躍進した右派のリフォームUK(旧ブレグジット党)。左派では緑の党が大きく議席を伸ばしています。いずれもポピュリスト政党に位置付けられます。
リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は「歴史的大勝」を宣言。欧州政治のポピュリズム化が一層進むとの見方もありますが、実はリフォームUKの得票率は伸びていないと英「エコノミスト」誌は指摘します(詳細、後出)。中道の自由民主党も議席を増やしたほか、地域政党の「プライド・カムリ(ウェールズ党)」「スコットランド民族党」が勢力を維持・拡大しました。英国の二大政党制が揺らいでいるのは事実として、その背景にあるのは欧州各国にも共通する多党化の潮流であるようです。労働党にとっては他の中道勢力と連携が「リフォームUK政権誕生」を阻むカギ、つまりある面ではフランスとも似た政治状況が生まれています。
5月14~15日の米中首脳会談が近づく中、その議題に多くの関心が集まっています。イラン情勢、台湾問題を筆頭格に、半導体・AI(人工知能)など先端技術規制やレアアース(希土類)などのサプライチェーン再編にも言及があると予想されます。この会談だけで事態が打開されると見るのは甘いとの議論がある一方、頭に置いておきたいのが両国高官からそれぞれの指導者に向かう「忖度」が及ぼす影響です。
習近平国家主席を絶対視する中国の官僚機構が合理的な政策運営から遠ざかることはしばしば指摘されますが、それはトランプ政権にも当てはまりそうな問題です。経済的な成果を上げたいトランプ氏に対し、中国が台湾問題などでの譲歩を持ち掛けることも想定され、“その気”になったトランプ氏を諫める人が政権内には見当たらない。この「予測不可能性」に中国側が好機を見いだしているとの議論も興味深いところです(詳細、後出)。
そのほか、大規模な移民受け入れを続けるスペインの現状、イラン戦争によるエネルギー危機に直面しているASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳会議、インドーパキスタンの対立や日韓の核武装論などアジアの安全保障環境を取り上げた論考など、今週は10本を取り上げました。
皆さんもぜひご一緒に。
The Trump-Xi summit will expose a dysfunctional duo【Economist/5月7日付】
「[ドナルド・]トランプ氏が5月14、15日に北京を訪れ、中国の最高指導者である習近平国家主席と会談することは、米中関係の行方を左右する重大な局面となる。これは2026年末までに予定されている4回の会談の第1弾だ。今後6カ月間は、人工知能(AI)からサプライチェーン、台湾、イランに至るまで、今後数年にわたる両国関係を決定づけるものになる可能性があり、その影響は多岐にわたるだろう」
米中首脳会談を前にしてエコノミスト誌は、「ふたりの機能不全を露わにするトランプ・習サミット」(5月7日)で、テーマとなりうるさまざまな分野について予測。そのうち、安全保障については次のように分析する。
「米国の交渉担当者は、首脳会談に向けた準備段階において、安全保障ではなく通商に焦点を当て続けてきた。しかし、中国側は米大統領の予測不可能性に好機を見出している。彼らの見方は正しいかもしれない。中国のアドバイザーたちが習氏に反論することを恐れているのと同様に、ホワイトハウスの高官たちも、台湾を含む中国に関するあらゆる事柄について、トランプ氏に判断を委ねているのだ」
「そして、トランプ氏はそこで、態度を軟化させることで緊張を和らげられると考えているのかもしれない。中国当局者は、台湾問題でトランプ氏が譲歩すればするほど、中国は貿易面でより多くの譲歩をするだろうとほのめかしている。彼らは、トランプ氏が台湾への武器売却を中止したり、台湾の独立に反対だと表明したりすることを望んでいる」
また、イランやウクライナをめぐる戦争では、停戦への取り組みが急に動きだしたようにも見えるのだが、
「米国によるイラン攻撃は戦略的な失策であり、中国は米国が自業自得の結果を味わうのを黙って見守ってきた。しかし中国は今、外交に手を染め始め、今週イランの外相と会談を行った。中国はイラン政権に対し、交渉に応じるよう圧力をかけるべきである。あるいは、安全保障の保証を提示して核開発計画の放棄を働きかけるべきだが、外国の紛争に首を突っ込むことへの嫌悪感が、その足を引っ張っている」
「また、中国がイランに対して自らが有していると考える道義的優位性は、中国がロシアのガスを購入し、軍民両用技術を販売することで、ウラジーミル・プーチンがウクライナで戦うことを可能にする役割を果たすことによって、正当性が損なわれている。トランプ氏は習氏に対して、ウクライナ戦争の終結に向け、モスクワにおける影響力を行使するよう強く求めるべきだ」
エコノミスト誌は今回の会談に期待をかけているわけではない。「両政府間の対立は根深く、事態の打開を期待するのは甘すぎる」「この首脳会談からは、つくり笑いのほかにはほとんど何も生まれないだろう」というのが基本的な見方だ。
そのため同誌はこの記事で、冷戦時代の米国とソ連の方がまだ、核軍縮や欧州の和平といった共通の課題への取り組みがまともだったと賞賛さえしてみせたうえで、新冷戦においては、AIから気候変動までを含む多くのグローバルな問題が山積しているにもかかわらず、米中両大国の「野心の欠如」が著しいことを批判する。
「残念なことに、両国の指導者はともに、協力とは相手側からルールを押し付けられる罠だと考えている。その論理により、優先されるのは『支配』であり、地球規模の公共財ではない」
「米国と中国を交渉の席につかせている唯一の要因は、互いに与えうる経済的打撃への恐れにほかならない。G2は世界をリードしているのではなく、むしろ人質に取っている」
Trump's China Trap【Michael Kovrig/Foreign Affairs/5月5日付】
「北京で多くの[西側同盟国の]指導者たちが小規模な合意を次々と結ぶのを見てきたトランプは、彼らを上回る成果を上げたいという誘惑に駆られ、より派手な合意を勝ち取るために大々的な声明を発表し、中国側に歩み寄る可能性もある。会談に前向きな雰囲気を醸成するため、トランプ政権はすでに、先端コンピューターチップの販売を承認し、台湾への武器売却を延期し、中国に起因するサイバー攻撃に対する制裁措置を見送っている」
「トランプは中国に対し、米国産大豆、天然ガス、ボーイング製航空機の購入を確約させるとともに、フェンタニルの前駆物質の輸出を制限し、希土類元素の安定供給を確保することを望んでいる。その見返りとして、習は、台湾への米国の支援の抑制または縮小、輸出・技術管理、中国企業への制裁、および米国への投資障壁の緩和などを期待するだろう」
米中首脳会談が西側にとって大きなリスクを孕んでいることについては、カナダの元中国担当外交官、マイケル・コブリグ(非営利研究ネットワークのストラテジックエフェクツのエグゼクティブ・ディレクター)も、米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトに寄せた「トランプを待ち受ける中国の罠」(5月5日付)で詳しく指摘する。
「しかし、このアプローチは米国にとって重大なリスクを伴う。もし同盟国が、トランプ氏が注目を集める発表のために共通の利益を犠牲にしていると感じれば、彼らの[“トランプ・リスク”に対する]ヘッジの動きは加速し、西側同盟の亀裂はさらに深まるだろう」
「また、トランプの訪問が、同地域における米国の安全保障上の保証や技術管理といった長期的な戦略的利益を犠牲にして、一時的な合意に終われば、それは習に対し、もはやワシントンでさえも北京に歩み寄る用意があることを裏づけることになる。そうなれば、中国との競争が激化する決定的な時期に、米国は危険なほど弱体化した状態を強いられることになる」
この論考でコブリグは、昨年から“中国詣で"に踏み切る西側の首脳が増えている(オーストラリア、フランス、ニュージーランド、ポルトガル、スペイン、EU[欧州連合]、フィンランド、アイルランド、韓国、英国、ドイツなど)ことを紹介し、トランプ政権に依存するリスクを低減させようとする彼らの取り組みも危険視している。
「こうした一連の動きが作り出す印象は、世界が北京に歩み寄っているというものであり、脱中国化は不可能であるという認識だ」「北京の好意を維持するためには、こうした国々は、自国の産業・技術基盤が衰退していく一方で、ますます高度化する中国の製造品の輸入をますます受け入れざるをえない」
‘The biggest China dove in the administration': Trump to test limits of dealmaking in Beijing【Ari Hawkins, Daniel Lippman/POLITICO/5月7日付】
上記のコブリグ「~中国の罠」には、こんな一節がある。
「彼ら[中国を訪れる外国首脳]の多くは、中国経済と深く結びつき、貿易、投資、事業運営における政治的・規制上の後ろ盾を求めている企業を代表する大規模なビジネス代表団を伴って訪中する」
この経済ミッションが、今回のトランプ訪中ではどうなるのか。そこを探っているのが、米「ポリティコ」の「『政権内で最大の対中ハト派』――北京でのディールメイキングの限界を探るトランプ」(5月7日付)だ(筆者は記者のアリ・ホーキンスとホワイトハウスおよびワシントン担当記者のダニエル・リップマン)。
「『大統領は約1週間後に「出発」する予定だ。しかし、訪問まであと1週間を切った今も……大統領の訪問団に加われるかどうか、まだ結果を知らされていないCEOたちがいる』と、270社以上を代表する米中ビジネス協議会のショーン・スタイン会長は語る。『「おそらく招待されるかもしれない」と伝えられているCEOが何人かいる』」
「ビジネス代表団をめぐる駆け引きは、世界最大の2つの経済大国間の商業関係において、政権当局者たちが模索している微妙なバランス感覚の一端にすぎない。外国との派手で巨額の投資案件をアピールしたいというトランプの意向と、中国の投資が国家安全保障上の脅威であるとするワシントンでのコンセンサスが拡がっていることとの間に対立が生じているからだ」
トランプの対中ディールを促進させようと動いている人物として記事が名を挙げるのは駐中国大使のデビッド・パデュー。一方、企業ミッションの規模の抑制を働きかけているのは通商代表部(USTR)トップのジェミソン・グリアだという。
「[略]政権当局者はここ数週間、参加候補として約20社の経営幹部名簿の草案を回覧していた。しかし、ジェミソン・グリア米通商代表を含む一部の当局者は、その半数程度の人数に絞ったグループとすることを強く求めた。人数はまだ変更される可能性があるものの、[略]現在の招待者リストは、より小規模な人数に近いものになっているという。政権側は今週中に出席者を最終決定する見通しだ」
大統領とともに北京入りする米国の経済ミッションの規模や顔ぶれに着目すると、米中首脳会談への米国側の姿勢が見えてくるかもしれない。日本でも高市早苗政権が5月下旬、ロシアに経済ミッションを送るとの見通しが報じられ、注目が集まっている。大きく揺れ動いているのは、外交における経済と安全保障の優先順位だ。
[Southeast Asia Brief]ASEAN's Angry Summit【Joseph Rachman/Foreign Policy/5月6日付】
ASEAN首脳会議が5月8日、フィリピンのセブで開かれた。一連の会議は当初、5日間の日程だったが例年より短縮された。議長国フィリピンがエネルギー非常事態を宣言したためだ。
「会議ではその[現在進行中の燃料危機の]解決策に焦点を当てることになる。また、イランへの空爆によってこの危機を招いた米国に対する世論は、次第に険悪なものになりつつある」
このように解説してくれるのは、米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌の週刊ニューズレター、「東南アジア・ブリーフ」の最新5月6日号「ASEANの怒れるサミット」だ。
ただ、担当ライターのジョセフ・ラックマンはこの対米姿勢に関しては、「ASEANの中で最も親米的なフィリピンが今年の議長国を務めることから、批判的な意見はさらに抑え込まれることになるだろう」との見方を示しており、実際、首脳会議は表向き、そのように終始した。
しかし、東南アジアの現在ただ今の空気は次のようなものだという。
「影響力のある調査[シンガポールのユソフ・イシャク研究所が4月に発表した「The State of Southeast Asia: 2026 Survey Report」]によると今年、ASEANの有力者の過半数が、もし米国と中国のどちらかを選ばなければならないとしたら中国を選ぶだろうと答えた。そして、この調査は2月28日のイラン戦争勃発前に実施されたものだ。関税の影響は予想以上に軽微であったものの、ホルムズ海峡の封鎖は、この地域に深刻な経済的打撃をもたらすおそれがある」
「この地域の各国は、米国の外交政策における冒険主義の代償を経済的に支払わされていることに憤りを感じている。先週の米『ワシントン・ポスト』紙のインタビュー記事で、タイのシーハサック・プアンゲートゲーオ外相は、この戦争は『起きるべきではなかった』と述べた。/彼はまた、米国がタイに対し、この事態への対応に関する支援を申し出ていないことにも言及した」
今回の首脳会議は、どのような「怒れるサミット」となったのか。また、エネルギー危機が大きなテーマとなった会議で、「パワーアジア」政策を掲げた日本の主張はどのように受け止められたのか。そのあたりについては、内幕を伝えるリポートを待ちたい。
Britain Leaves Two-Party Politics Behind【Jamie Maxwell/Foreign Policy/5月5日付】
英国で5月7日に投票日を迎えた地方選において、国政与党の労働党が歴史的な大敗を余儀なくされた一方、ポピュリズム右派とされるリフォームUKが大幅に議席を伸ばした。最大野党の保守党も議席数を3分の1以上失っている。
これは事前の予想どおりとも呼べる結果であり、たとえば投票日前の5月5日付でFP誌サイトに登場した「二大政党制が過去のものとなる英国」で、筆者でグラスゴー在住の政治ジャーナリスト、ジェイミー・マクスウェルは、次のような見方を打ち出していた。
「労働党はあらゆるレベルで苦戦を強いられる見通しだ。イングランドにおける地方選挙では過去最悪の結果となる見込みで、一部の世論調査によると、同党が擁立している約2500議席のうち74%を失う可能性もある。スコットランドでは、同党は1999年のスコットランド議会創設以来、最も低い得票率となる結果に備えている。ウェールズ議会(セネッド)では、ほぼ間違いなく27年ぶりに政権を失うことになるだろう」
約5000の総議席数のうち、労働党が1000議席超を失う一方、リフォームUKが1300議席近く増やしたという結果だけ見ると、キア・スターマー政権が“信任投票"で敗れ、ナイジェル・ファラージ党首率いるリフォームUKが大躍進した形なのだが、マクスウェルの予測と分析はそこにとどまっていなかった。
「保守党も5月7日には大敗を喫する見込みだ。有権者は、2010年から2024年まで政権を握っていた保守党を、国の衰退の一因と見なしている」
「1997年の総選挙では、労働党と保守党の得票数は合わせて2300万票を超え、英国全体の投票総数の74%を占めた。その結果、SNPやプライド党を含む小政党の得票率は4分の1強にとどまった(当時、極右のリフォームUKは存在せず、緑の党もごく少数派だった)。それが今日、労働党と保守党の支持率はそれぞれわずか15%と16%にとどまる。一方、リフォームUKは25%、緑の党は21%を記録している」
「1世紀以上にわたり英国の政治を支配してきた、労働党と保守党による二大政党制というウェストミンスター体制が、崩壊しつつあるように見え始めている」
今回の地方選は、中央の政権のあり方のみならず、スコットランド独立、ウェールズの自治権拡大、アイルランド統一など、英国全体の形を大きく変える可能性を孕むというのがマクスウェルの予想であり、選挙結果はそのようなものとなった。
Nigel Farage's triumph is not quite what it seems【Economist/5月8日付】
もっとも、選挙の趨勢が見えたのを受けてのエコノミスト誌の記事「ナイジェル・ファラージの勝利は、見た目そのままものものではない」(5月8日付)を読むと、二大政党制の終焉やそれに代わる新たな体制の誕生はまだ先のことであるようだ。
「[スターマーは党首の職を失う可能性もあるが]労働党の敗北は広範囲に及んでおり、党内のどの派閥も政権奪取への現実的な道筋を見出せていないため、皮肉なことに、スターマー氏を党首の座から引きずり下ろすことがより困難になっている」
「ファラージ氏は、[大別すればリフォームUKと同じ右派である]保守党を完全に壊滅させるとの期待には応えられなかった。同党はイングランド南部のハンプシャー州では依然として最大の政党であり、ロンドンでは2022年に労働党に奪われたウェストミンスターを含む6つの区で勝利を収めた」
何より、リフォームUKの大勝は、選挙制度によって底上げされたものだと記事は指摘。
「さらに、改革党の勝利は、一見したほど圧倒的なものではない。[略]初期の予測によると、今回の選挙[の全国換算得票率(National Equivalent Vote)]でリフォームUKは得票率31%を獲得したことになる。これは、昨年のさまざまな選挙で同党が記録した32%を下回る数値だ。さらに、2022年に保守党が得た33%より低い。[略]リフォームUKは有権者の多数から支持されている党かもしれないが、それは制度全体が細分化しているからだ」
英国政治の近未来について、次のような見方を示す。
「ウェールズでの結果を見ると、リフォームUKの政権獲得への道は決して確実ではないことがわかる。ファラージ氏がかつて最優先地域と位置づけていたウェールズでは、民族主義政党であるプライド党が中道左派の票を固め、43議席を獲得したのに対し、リフォームUKは34議席にとどまった」
「もし英国全土の中道左派有権者も同様に説得され、リフォームUKを阻止するために連携すれば、ファラージ氏の現在の支持率では政権樹立には不十分となるだろう――労働党にとって、暗澹たる一日における一筋の希望だ」
[The Big Read]Four ways Europe's big immigration experiment has changed Spain【Barney Jopson, Alan Smith, Irene de la Torre Arenas/Financial Times/5月7日付】
「スペインは、欧州で現在も続く唯一の大規模な移民受け入れの実験を行っている。欧州大陸や米国といった他の各国政府が国境での新たな規制を導入するなか、ペドロ・サンチェス首相の『開かれた国境』政策により、新規入国者が異例の増加を見せている」
「2022年以降、スペインの外国生まれの人口は年平均66万5000人増加しており、これは毎年マラガ市に匹敵する規模の都市がひとつ増えるのに相当する。ベルリンのシンクタンク、ロックウール財団によると昨年、EU全体の移民人口の増加分の約3分の1をスペインが占めた」
「四半世紀足らずの間に、スペインの外国生まれの人口は、住民の20人に1人から5人に1人近くへと増加し、その割合は米国を上回る水準となっている」
英「フィナンシャル・タイムズ」紙は、毎日1本掲載される長文特集記事枠「The Big Read」でスペインの移民政策をリポートしている。
「欧州の大規模移民受け入れ実験4種が変えたスペイン」(5月7日付)は、スペインおよびポルトガル特派員のバーニー・ジョプソン、ビジュアル・データ・ジャーナリズム責任者のアラン・スミス、デジタル・デザイナーのアイリーン・デ・ラ・トーレ・アレーナによるもの。彼らがさまざまなデータや分析を交えて示す“移民の国"スペインの陰と陽は次のようなものだ。
【プラス面】
▼過去2年間、スペインは先進国の中で最も高い成長率
▼EUにおける雇用創出の原動力
▼2020年以降にEU域内で創出された1110万人の新規雇用の4分の1をスペインが占める
▼この新規雇用の約70%が移民分
▼“現場仕事"の人手不足が移民で穴埋めされている
【マイナス面】
▼住宅の供給が追いついていない(過去10年で増加世帯数が住宅建設戸数を70万世帯、上回った)
▼住宅不足が家賃の高騰を生んでいる(21~25年度の上昇率はスペイン全土で39%、マドリード地域で59%)
▼反移民政策を掲げる極右政党ボクス(VOX)が台頭。必ずしも事実にもとづかない移民批判により、移民が政治問題化しつつある
そもそも、18年に発足したサンチェス政権が「閉鎖的で貧困に陥る社会」ではなく「開放的でそれゆれ繁栄する社会」を目指すことを選択した背景には、少子化がある。合計特殊出生率は1.1人で、EU加盟国で下から2位(最下位はマルタ)だ。そして、もうひとつの背景は、「過酷な仕事」をスペインの若者が嫌っていることにより人手に拍車がかかっていることだと、記事は伝える。
そして、移民受け入れ政策は次のようなものだ。
「スペインは、約15カ国のラテンアメリカ諸国に対して、他国とは一線を画すほど開放的な移民政策をとっており、こうした国々の国民はビザなしで入国できる。その後、居住許可を申請した者は、2年以内にスペイン国籍を取得することができる。一方、90日間の滞在期限をただ超過してしまうと、不法滞在者となる」
「先月、スペイン政府がこれまでに行った中で最も物議を醸した移民政策が発効した。これは、少なくとも50万人に対し、居住権や就労許可を取得し、闇経済から抜け出す機会を与える包括的な恩赦措置だ」
「スペインにおける移民労働者のうち、依然としてラテンアメリカ人が圧倒的に最大のグループを占めている。その中でも、コロンビア人の数が最も急速に増加している」
もちろん、ラテンアメリカ諸国のみから移民を受け入れているわけではない。そのため、記事の描くような状況が生まれている。
「バレンシアの海岸沿いの駐車場ではセネガル人男性が警備にあたり、バスク地方の村の広場ではパキスタン人の少年たちがクリケットを楽しんでいる。また、マドリードやバルセロナでは、アメリカのデジタル・ノマドたちが高級マンションを次々と買い占めている」
移民排斥を唱えるボクスは、19年の下院選挙において得票率で15.1%、議席数で全350議席中52議席を得た。だが、24年には12.4%、33議席と後退しており、スペインの右派ポピュリズムに火が付いている状態ではない。
とはいえ、「その[ボクスの唱える]懸念が、この右派政党の支持者層を超えて広がりつつある」と記事は指摘。一方で、すでにスペイン国籍を得た多くの移民はサンチェス首相率いる社会党政権を支持するとの見方も伝えている。
Why the Next India-Pakistan War Will Escalate【Elizabeth Threlkeld/Foreign Affairs/5月4日付】
Why Japan and South Korea Won't Go Nuclear【Victor Cha, Kristi Govella/Foreign Affairs/5月7日付】
The Return of Japanese Hard Power【Matthew Finkel/Foreign Affairs/5月5日付】
FA(フォーリン・アフェアーズ)誌サイトにここのところ、アジアの核や軍備についての論考が目立つ。
たとえば、「次のインド・パキスタン戦争はなぜエスカレートするのか」(5月4日付)は、米スティムソン・センターの上級研究員で南アジア・プログラムのディレクターを務めるエリザベス・スレルケルドによる分析。昨年の軍事衝突の発生から1年という節目を受けての寄稿だろうが、その内容は単なる周年企画の域に留まらない。
「2025年5月の危機では、隣国同士が4日間にわたり激しい越境砲撃を交わし、数十年ぶりの核保有国同士による最も深刻な戦闘となった。これは、ドローン、ミサイル、砲撃が軍事基地や都市部を含む前例のない数の重要目標を攻撃し、核の瀬戸際にまでは至らない通常戦における紛争が大幅に拡大したことを示していた」
「戦闘の規模に懲りるどころか、インドとパキスタンの軍事計画担当者は、この1年間、将来の紛争において互いにさらなる損害を与える方法について教訓を導き出してきた。双方は、次なる大規模な衝突においては、過去よりも迅速に、より遠くへ、そしてより大規模に攻撃を仕掛ける能力が勝敗を分けるという結論に達している。両国は、新たな戦力を導入し、国内の開発プログラムを拡大し、部隊の機動性と連携を向上させるための大規模な構造改革を実施することで、その教訓を実践に移している」
「たとえ精密打撃戦によって、地上戦の場合に比べて核兵器が意図的に使用される可能性が低くなったとしても、新たなシステム、標的、戦域の導入により、不注意による核兵器使用のリスクは高まっている」
日本についても、2本の論考が登場した。「日本と韓国はなぜ核武装に至らないか」(5月7日付)と「日本のハードパワーの帰還」(5月5日付)だ。
このうち「~なぜ核武装に至らないか」は、FA誌サイトの「最も読まれた記事」6本に入るほどの関心を集めている。筆者は米ジョージタウン大教授で同戦略国際研究所(CSIS)地政学・外交政策部門プレジデントを兼務するビクター・チャと、英オクスフォード大准教授で米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問兼ジャパン・チェアのクリスティ・ゴベラ。
また、「~ハードパワーの帰還」では、米外交問題評議会(CFR)の国際問題研究員で同ハーバード大ケネディ-・スクールの技術・人権フェローを兼務するマシュー・フィンケルが、高市早苗政権で加速する日本の防衛産業の強化を紹介している。
2本の論考は、日本の読者にとって目新しい内容は多くないかもしれないが、続けてFA誌サイトに掲載され、かつ、注目を集めているという点については留意が必要だろう。
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