『アメリカのデモクラシー』トクヴィル著/松本礼二訳岩波文庫 2005年刊(原著は1835年、40年刊。他の訳に講談社学術文庫の井伊玄太郎訳『アメリカの民主政治』などがある)「過去はもはや未来を照らさず、精神は闇の中を進んでいる」――。 八月三十日、民主党圧勝の衆院選挙速報をテレビで見ながら、トクヴィルの名著『アメリカのデモクラシー』の一節を思い出した。いよいよ政権交代。日本の戦後民主主義も新たな局面に入るのか。それにしても「風が吹いた」などと、はしゃいでいる場合ではないだろう。日本の状況はまさに、トクヴィルが生きた十九世紀前半のフランスのような、混沌たる光景だ。 一七八九年のフランス革命からナポレオン戦争の栄光と敗北、王政復古、そして二月革命を経た共和制から第二帝政へ……。国のかたちが定まらなかった当時のフランス。冷戦終結以来、一九九三年の短い非自民連立政権時代などを経ながら、政治・経済ともに落ち着き場所を得られない日本の姿。どこか似通う。まさに日本人の精神も闇の中を進んでいる。当時のフランス同様、一回の政権交代ではとうてい明かりを見つけようもない闇だ。 そんな混沌の時代のなか、トクヴィルが民主主義、平等、自由といった根本的問題について思索して綴った本書を繙いてみるのは、意味がありそうだ。

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