ニューヨークで想起した「黒人パワー」の源流

執筆者:竹田いさみ2009年10月号

 ニューヨークのJFK国際空港に到着し、ターミナルに足を一歩踏み入れて気付くのは、アフリカ系黒人の存在感である。駐機場を含め空港内のいたるところで黒人ばかりが目に付く。空港を離れ、イエローキャブのタクシーに乗れば、大半の運転手は黒人だ。タクシーを下車し、マンハッタン島の目抜き通りに聳える高層ビルへ入れば、警備員や受付として働いているたくさんの黒人に出会う。 金貨や銀貨など時代物のコインを扱う骨董屋を覗いたときも、店内で警備をしていたのは黒人だった。この店に入ったのは、十六世紀の英女王エリザベス一世時代に鋳造された銀貨に興味があったためだ。しかし、人気商品のため在庫切れ。眼光は鋭いが、あくまで穏やかな口調の店主らしき人物が近寄り、「父親のヘンリー八世の銀貨ならあります」と教えてくれた。大きな顔立ちのヘンリー八世が刻印された本物の銀貨が目の前に差し出され、値段を見ると一万二千五百ドル(約百十七万円)也。やはりニューヨークに無い物はないと、世界の富を引き付けるその強大な磁力に圧倒される。 ヘンリー八世とエリザベス女王が一時代を築いたテューダー朝で、イギリスは海外貿易に目覚め、大西洋貿易に乗り出していく。最も重要な「商品」がアフリカ系黒人奴隷であった。

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