老いた記者の見た「小沢一郎の勝利」

執筆者:徳岡孝夫2009年10月号

 隣の町はお天気なのに、狭い地域に限って滝のような雨が降る。または突風、竜巻が襲って人を殺し、家を壊す。近頃の天然現象は荒っぽく、暴力的になった。横浜の南部にある我が家も数年前、一時間に五十ミリという観測史上に例のないゲリラ豪雨を浴びたことがある。そういう雨には、降られる人間を打ちひしぐ力がある。 自然の現象と同じように、人間の行なう行為も常識を超えて荒っぽくなった。一例が今回の衆院選での民主党の大勝利である。二度三度と全国を行脚し日教組まで抱き込んだという小沢一郎氏の手腕を知らぬでもなかったが、それが手品のように成功するとは予想もしなかった。 三月に入院してから八月の選挙前までの五カ月間、私は大半をベッド上で過し、ラジオが唯一の情報の取り入れ口だった。退院してから間もない投票日、ふらつく足で投票に行ったが、それが政治スペクタクルに参加することになるとは知らなかった。小選挙区制とは凄まじいものだ、風が吹くってこんなものかと、つくづく思い知った。 小沢は公設第一秘書が政治資金規正法違反の容疑で起訴されたんじゃないのか。鳩山由紀夫は亡者から政治献金を貰ったんじゃないのか。そういうことは、選挙戦のあいだ問題にならなかったのか。私の入院中ずっとシャバにいた友人にそう訊くと、彼は平然として答えた。

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