「米中タイヤ摩擦」の思わぬ波紋

執筆者:加瀬友一2009年11月号

保護主義防止が叫ばれるなかで発動された米国のセーフガード。もちろん中国の大反発を買ったが、米国はなぜ読みを誤ったのか――。「北京がこれほど的確に政権の急所を突いてくるとは、想定していませんでした。私たちは中国政府の分析力と戦略性を、いささか甘く見ていたようです」 米国の通商政策の関係者が苦笑いしながら、こんな本音を漏らした。話題は中国製の自動車タイヤをめぐる米中間の貿易摩擦である。 オバマ大統領は米国時間で九月十一日の深夜、中国製タイヤを対象とする緊急輸入制限措置(セーフガード)の発動を発表。中国政府はこれに敏感に反応し、商務省の陳徳銘部長(商務大臣)が翌十二日に米国の措置を非難する緊急声明を出した。 さらに間髪を容れず十三日には、中国側としても米国からの輸入品に照準を合わせ、別の品目で輸入制限の準備に入る方針を表明。わずか二日間で、たたみ掛けるようにオバマ政権の動きを封じる論陣を張った。 米政府は、中国の迅速で攻撃的な行動に驚いたようだ。オバマ大統領は十四日、予定していたニューヨークでの演説に急遽「中国を挑発する気はない」という弁解めいた文言を盛り込み、事態の鎮静化を図った。これ以上、中国を興奮させてはマズいと考えて、慌てて火消しに回ったのだろう。

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