「サイバー戦争」に向き合う米国の不安

執筆者:黒瀬悦成2009年11月号

ネット空間で国家機密を狙う「サイバー・スパイ」が暗躍。被害が続出した米国は電脳世界の安全保障強化に本腰を入れ始めたが……。[ワシントン発]オバマ政権の誕生を目前に控えた昨年十二月。米国の首都ワシントンにある有力シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のコンピューター・システムが何者かに侵入された。建物内のパソコンが夜中にひとりでに稼働しているのを研究所のシステム管理者が発見し、調べたところ、オバマ政権の要職に登用が噂されていた複数の研究員の電子メールが不正に閲覧されていることが判明したのだ。 CSIS上級研究員で、サイバー安全保障の権威であるジェームズ・ルイス氏は、「このうち何人かは実際に政権に入った。中国の情報機関と見られる何者かが、彼らのメールの中身に興味を抱いたようだ」と説明した。研究員の交友関係や人脈、政治傾向などを調べ、新政権の外交方針を読み解こうとしたのか。それとも工作を仕掛ける手がかりを探っていたのか。いずれにせよ、研究員の個人情報こそ侵されたものの、国家安全保障に関する重要機密が流出したわけではなく、被害は比較的小さかったと言える。しかし、この事件は外国機関によるコンピューター・ネットワークを駆使した情報活動の網が、米国の一研究機関にも及んでいる実態を如実に示した。

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