それでも魅力に溢れる「戦争写真家」の回想録

執筆者:中井良則2009年11月号

『ちょっとピンぼけ』ロバート・キャパ著/川添浩史・井上清一訳文春文庫 1979年刊 ウォー・フォトグラファー、つまり「戦争写真家」と呼ばれることが本人の望みだったわけではあるまい。しかし、報道写真史上、初めてウォー・フォトグラファーとして扱われたのは彼だった。死んでから五十五年たったいまもウォー・フォトグラファーとして記憶される。写真という仕事はいくら有名でも映像だけが思い出に残り、撮った者の名前は忘れられる。だが、この写真家は例外だ。 ロバート・キャパ(一九一三―五四年)の四十年の人生は、二十世紀に誕生した新しい職業、ウォー・フォトグラファーの地位を確立した。 いくら危険でも地球のどこへでもかけつける冒険家。シャッターチャンスを逃さず事実を伝える使命感。世界中の新聞の一面や雑誌の表紙に自分の名前が載る功名心。大好きなのはギャンブルと酒と女。そんなウォー・フォトグラファーのイメージを作り出したのはキャパであり、その回想録が本書『ちょっとピンぼけ』だ。 手元にある文庫本の奥付は、一九七九年五月二十五日第一刷、定価二百八十円とある。いま書店に並ぶのは三十六刷、定価五百五十二円+税。絶版にならずロングセラーとして生き残ったのはうれしい。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。