先進国で携帯電話が普及し始めたのは一九九〇年代からだった。二〇〇〇年代に入ると新興国や途上国でも爆発的な普及が始まり、今や使用者は世界中で四十億人とされる。ところが、欧米では最近、携帯電話の健康リスクを懸念する医師や研究者が増えている。十年以上の長期使用者、使用頻度の高いヘビーユーザー、子供の使用者などの間で腫瘍が生じる可能性が高まることを示す調査結果が発表されているからだ。 たとえばスウェーデンのオレブロ大学病院のレナート・ハーデル博士(腫瘍学)が〇八年九月に発表した調査では、神経膠腫の発症リスクが十年以上の使用者の間で二・七倍に、二十歳前に携帯電話を使い始めた人の間では五・二倍になった。腫瘍リスクの高まりを示した数自体は全体の五%以下のようだが、長期使用者の発症傾向は共通している。 これまで「携帯電磁波の危険性を示す科学的証拠はない」との立場をとってきた米国も対応しつつある。〇九年九月十四日、米国議会で「携帯電話使用による健康への影響」と題する公聴会が開かれた。目的は、携帯電話の健康リスクについてさらなる研究調査の必要性や、求められる予防措置について議論すること。長期使用者のリスクを知るために、米国よりも早く携帯電話が普及し始めた国々からも専門家が招かれた。

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