シーア派大国イランを脅かす“異端”の民

執筆者:久保健一2010年1月号

[テヘラン発]中東の大国イランは、日本の四倍以上の国土を持つ。同時に、多数派のペルシャ人が、全人口(約七千万人)の半数を占めるにすぎない多民族国家である。東西南北の国境に接する「周縁部」は、アラブ人、クルド人、トルクメン人など、非ペルシャ人が多く暮らす地帯で、歴代ペルシャ王朝に対する反乱も多く起きてきた。 首都テヘランから最も遠い周縁部が、東南部シスターン・バルーチスタン州だ。ここで十月十八日、イランのイスラム革命体制を震撼させる事件が起きた。パキスタン国境からわずか数キロの街ピシーンで、体に爆弾を巻き付けた一人の男が、地元住民でごった返す集会場に乱入し、自爆したのだ。死者四十二人。犠牲者の中にいた、イランの精鋭部隊「革命防衛隊」陸上部隊副司令官が標的だったのは明白だ。 文字通り革命体制の砦である革命防衛隊幹部が狙われたテロの衝撃は大きかった。同州情勢は、六月の大統領選後の改革派の反政府運動で揺れ動くイスラム革命体制の新たな不安定要因として浮上した。 同州は、イランの最貧州の一つだ。六月の大統領選で、アフマディネジャド大統領の得票が改革派ムサビ元首相の得票を下回った唯一の州だったことからも、住民の反政府感情の強さがうかがえる。

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