『社会市場経済の勝利』ルートヴィヒ・エアハルト著/菅良訳時事通信社 1960年刊(原著は57年刊行。現在は古書としてのみ入手可能)「闇市場は突如として姿を消した。陳列棚には商品が溢れ、工場の煙突は煙を吹きあげ、街々にはトラックがひしめいた。どこであろうと、至る所で廃墟の死の静寂の代わりに建築の騒音が鳴りひびいた。この再建の規模も驚くべきものであったが、その突然さにはもっと驚くべきものがあった。それは……通貨改革の日とともにただちに起こったのである。……その前日の夕方までは、ドイツ人はまだ情ないほどわずかな食料をすこしでもよけいに得ようとして、街々をあてどもなくさまよっていた。ところが……翌日には全国民が希望に満ちて将来を眺めたのであった」 一九五七年出版の『万人のための福祉』で西ドイツ(当時)のエアハルト経済相は、その九年前に自分が手掛けた通貨改革の効果を、フランス人ジャーナリストを引用して、そう描写した。通貨改革は紙くず同然のライヒスマルクを一〇〇対六・五の比率でドイッチェ・マルクに切り換える措置で、抜き打ち的にそれが実施された四八年六月には、西ドイツという国家もまだ発足していなかった。米英仏ソの四占領地帯のうちの米英「双地帯」で経済行政長官だったエアハルトが、占領当局の懸念を尻目に敢行、そして成功したのだった。ただ、著者にとって通貨改革は目的ではなく、「社会的市場経済」の実践に必要な通過措置にほかならなかった。

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