裕福なナイジェリア青年がテロリストになるまで

執筆者:マイケル・ビンヨン2010年2月号

留学先のイギリスで孤独感を深めていった熱心なイスラム教徒を、アル・カエダは見逃さなかった。[ロンドン発]十二月二十五日のクリスマス、オランダ人乗客の機敏な動きのおかげで未遂に終わったものの、米デトロイト空港に着陸しようとしていたデルタ航空253便は危うく自爆テロによって爆破されるところだった。テロを企てたのは、二十三歳のナイジェリア人、ウマル・ファルーク・アブドルムタラブ。テロ組織アル・カエダの訓練を受けており、欧米を標的としたテロをアル・カエダが今も画策している事実を改めて世に知らしめた。イエメンでの「新たな人生」 オランダ・アムステルダムでデトロイト行きの飛行機に乗り込んだ青年を見て、この細身のナイジェリア人が下着に縫い込んだ爆発物を使った自爆テロを計画していると思う者は、まずいなかった。アブドルムタラブはナイジェリアの大手銀行ファーストバンク前会長の息子で、イギリスの大学を卒業。ヒゲは生やしておらず、身なりも良く、搭乗前のすべての手荷物検査を通過していた。 だが、予兆はあった。 イスラム教徒の多いナイジェリア北部(南部はキリスト教地域)の裕福な銀行家の家に生まれたアブドルムタラブは、まずトーゴ共和国ロメの英系インターナショナルスクールに通った。当時から信仰は厚かった。級友が断食月ラマダンにディスコで遊んでも一緒に行くことはなかった。十五歳の時、二〇〇一年九月十一日に起きた米同時多発テロは、米軍がサウジアラビアに駐留している以上、「必要な報復だった」と正当化していた。一方で、バスケットに興じたり、ヒップホップを聴くこともあり、級友たちは穏やかな人物だったと印象を語っている。

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