トヨタを蝕む「覇者の驕り」

執筆者:新田賢吾2010年2月号

販売台数の激しい落ち込みは、需要減退だけでは説明できない。成功に縛られ、時代の変化を受け入れられないトヨタに未来はあるか。 二〇〇七年に亡くなった米国の著名ジャーナリスト、デイビット・ハルバースタムの代表作のひとつである『覇者の驕り(原題:The Reckoning)』。一九七〇年代から八〇年代にかけてのゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車産業の衰退と、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなど日本メーカーの台頭を対照的に描いた名著だ。 邦題の「覇者の驕り」は古今東西の成功企業が最も気をつけなければならないリスクである一方、避けることのきわめて困難な課題でもある。今、この言葉を最も噛みしめている企業はトヨタかもしれない。 〇八年にGMを抜いて世界最大の自動車メーカーとなり、販売台数も八百九十一万台(〇八年三月期)と九百万台に迫ったトヨタは、まさに覇者の威風を感じさせ、GMですら成し遂げられなかった年間販売一千万台の壁を突破する勢いをみせていた。だが、〇八年九月のリーマンショック以降の、前年同期比三〇―四〇%減といった急激な需要減退、そうした苦境のなかでも需要を伸ばす中国、インド、ブラジルなど新興国市場での苦戦で、トヨタの連結販売台数は〇九年三月期には七百五十六万台まで縮小、一〇年三月期は六百五十万台にまで落ちこむ見通しだ。

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