「蒋介石ブーム」が意味するもの

執筆者:野嶋剛2010年2月号

欧米の研究者の間で「腐敗した独裁者」とみなされ、中国共産党からは「人民の公敵」と位置づけられた男。その評価が、いま劇的に変わりつつある。五十五年間、一日も欠かさずにつけられた日記をひもときながら、世界中で沸き立つ再評価のうねりをレポートする。[台北発]蒋介石のひ孫は、饒舌だった。「両蒋が神格化されなくなった時代に、我々は何をすべきか。いま、台湾でも中国でも、人々は神を求めていない。みんなに居心地のよいイージーな歴史を見せたい。それが私の目指す方向。家族を使ってお金もうけはしない。両蒋のキャラクターグッズは、ただ興味があって、やってみただけなんだ」「両蒋」とは、台湾の蒋介石元総統(一九七五年没)と息子の蒋経国元総統(八八年没)の二人を指す。 蒋介石のひ孫、蒋経国の孫にあたる蒋友柏(三三)は昨年、両蒋のキャラクター商品を開発し、ヒットさせた。台湾に君臨した二人の独裁者の顔がユーモラスに描かれたTシャツやマグカップを前に力説したのは、蒋家の歴史に向き合うことの大切さだった。 蒋介石にスーパーマンのシャツまで着せたデザインについて「蒋介石は独裁者で超人的な指導者だったから、ぴったりだと思った」。語り口は軽やかだが、蒋家の一員から発せられた言葉だけに逆に重みを感じる。

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