肩こりは日本人に独特な症状で、「肩こり」に当たる外国語はない、という話を日本の本でたびたび読んだことがある。今まで新しい国に住むたびに聞いてみたが、そんなことはない。何人かの肩も触ってみたが、場合によってはごく普通の日本人より肩が凝っていた。肩を揉んであげると、皆、気持ちがいいと喜ぶ。肩がひどく凝っているのに、気がついていないらしい。 ただ、確かに肩こりという名詞はない。「肩が硬直している」とか「固い」という形容詞を使うのがほとんどで、肩が凝っていてもそれを揉みほぐす習慣がなく、日本の薬局で所狭しと並んでいる湿布薬や塗り薬もない。 その傾向が変わってきたのは、ここ十年ぐらいだろうか。ヨーロッパでもマッサージを施術する場所が増えてきた。ちょうど、和食ブームでSUSHIを食べる人が増えてきたのと時を同じくするかもしれない。 今や寿司バーはヨーロッパのどの街角でも見かけられ、スーパーマーケットでもパックが売られるようになった。ファーストフード感覚なのに、カロリーが少ないのが人気の秘密だ。十年前までは海外の和食レストランというと日本人客がほとんどだったが、今や地元の客がメイン。しかも大変な行列である。そのころから、ストレスを溜めないで物事を流す態度が「ZEN(禅)」と呼ばれはじめ、流行語として定着した。電車が遅れてイライラしても、「禅」の態度で心を平らかにしようなどという調子で使われるのだ。こういう表現を聞くと外国人と寿司バーでアボカド巻きを食べ、「日本食っておいしいわね」と言われた時のように、少し違うような気がしながら、まぁ、これも日本発の文化が国際化していく一つのプロセスなのだろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。