地方から広がる「新しい農業金融」の芽吹き

執筆者:鷲尾香一2010年3月号

家畜を担保にした融資、農家のための経営管理システム作り――。地域の金融機関が第一次産業の育成にあの手この手で取り組み始めた。 リーマンショックをきっかけに行き過ぎたレバレッジ商法が批判を浴びた金融機関だが、本来のビジネスモデルは「預金を集め、相手の将来性を踏まえて貸す」というシンプルなものだ。金融機関の本分であるこの分野で、新たな動きが着々と広がりつつある。 主役は地方銀行を中心とした地域の金融機関。彼らは地元の底力をさらに引き出す融資制度を作って地方経済を再生させようとし始めているのだ。その大きな柱の一つが「農業」である。 長引く不況で融資先が減ったことによる新規需要の模索。農家の減少で弱体化した農協の代役。あるいは雇用を創出し人口流出に歯止めをかけるため――地域の金融機関が農業分野に目を向けた理由は一様ではない。 ただ、背景は共通している。農政の転換だ。それを象徴するのは、二〇〇五年に発表された農政の基本方針「食料・農業・農村基本計画」である。五年ぶりの見直しで、一般企業の農業参入や農家の法人化といった担い手の拡大や、農業制度資金(農業経営の改善に必要な資金を国や県が長期低利で融資あるいは利子補給する制度)の拡充という方向性が示された。農業のビジネス化が進み、大規模な農業法人が生まれれば、農協による資金供給では間に合わない。そこで旧・農林漁業金融公庫(現・日本政策金融公庫、以下「公庫」)が、民間金融機関が農業金融に参入する環境整備を行ない、追い風を吹かせた。

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