昨年末、名古屋市で市民税を一律一〇%減税する条例が成立した。前代未聞、全国初のことである。これによって、事実上、百六十一億円が市民の手に戻ることになる。 市民税減税は、「庶民革命・脱官僚」を掲げて昨年四月の市長選に圧勝した、河村たかし市長の公約の柱だった。だが、減税は、役人、議員にとっても、自分たちの権限縮小につながりかねない。市民からは喝采を浴びたものの、与党であるはずの民主党の中でも、二十七人の議員のうち河村市長に近いと見られているのは数人で、実質的に議会はオール野党の様相。道のりは険しかった。 市民税減税条例案は、昨年六月と九月の定例議会に提出されたが、いずれも継続審議扱い。否決されなかったのは、議会が人気の高い市長との正面対決を避けたからだが、公約実現はなかなか河村氏の思い通りには進まなかった。 そんな中、河村氏は十月二十八日、十一月議会で条例案が可決されなければ、自らを支援する市民グループが、議会の解散を求める署名集めを始めるであろうこと、議員の定数と報酬を半減する条例案を提出することに言及、議会側との亀裂は修復不可能なまでに深まった。 そして迎えた“関ケ原”の十一月定例市議会。市民税減税を認めたくない議会側は、自民・公明両党が修正案を提出し、一票差で可決。すると河村市長は拒否権を発動し、三十七年ぶりとなる異例の差し戻しを行なった。十二月二十二日の臨時議会ではその修正案を否決し、遂に自らの減税条例案を可決させた。議員の間で「何でもいいから、もう年末の休みに入りたい」というボヤキが上がる中、河村市長の執念の勝利だった。

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