鉱物資源を生かせない北朝鮮のジレンマ

執筆者:平井久志2010年4月号

「朝は輝けこの山河 金銀の資源も満ち 三千里美しきわが祖国」
 北朝鮮の朝鮮中央放送は、放送開始と終了時に、北の国歌「愛国歌」を流す。その歌詞にあるように、この国の地下資源は豊富だ。鉄鉱石や石炭、燐灰石、マグネサイト、ウランなど、二百種類を超える有用鉱物が確認されており、経済的な価値がある鉱物資源も四十種を超える。近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富とされる。
 これらの「価値」の評価は、国際的な価格の変動や調査機関によって異なる。韓国の大韓鉱業振興公社は二〇〇八年一月に総額二千二百八十七兆ウォン(約百七十六兆円)と推定したが、韓国の統一省は〇九年十月に国会に提出した資料で六千九百八十四兆ウォン(〇八年基準=約五百三十七兆円)とまで見積もった。
 北朝鮮の〇八年の貿易額(南北貿易を除く)は、輸出が十一億三千万ドル(約一千億円)で、輸入は二十六億八千五百万ドル。輸出額の六割以上が鉱物資源である。〇四年時点で、鉱業が国内総生産(GDP)に占める割合は八・七%と高い。評価額に差があっても鉱物資源が「宝の山」であることに変わりはない。
 金正日総書記は昨年六月六日に、北朝鮮屈指の鉱山地区である咸鏡南道端川市を現地指導した。端川で採れるのはマグネサイトなど。北のマグネサイト埋蔵量(四十億トン)は世界で最も多いとみられている。
 また、米国の資源探査衛星による調査で、軍需産業などには欠かせないタングステンも世界の埋蔵量のほぼ半分がある可能性が報告された。
 さらに、ウランも約四百万トンの埋蔵量があるとされる。これは北を除く世界の採取可能な推定埋蔵量とほぼ同じ量との見方もある。北が自前の原子力発電に固執する理由のひとつは、その燃料を豊富に持っていることだ。原子力発電を実現できれば北のエネルギー不足は大きく改善される。
 しかし、現時点で北朝鮮の鉱物資源は「宝の持ち腐れ」に近い。施設の老朽化や、機材や技術、エネルギー不足などの理由から、生産性が上がらないためだ。たとえば、鉄鉱石の生産は一九八五年の九百八十万トンをピークに減少に転じ、九八年には二百八十九万トンまで減った。その後の経済回復で〇八年には五百三十一万トンまで戻ったが、状況は他の鉱物資源も同様であり、国民は「金の山」の上で暮らしながら飢餓と闘っているのが現実だ。

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