激化する「食料」と「環境」の相克

執筆者:井田徹治2010年4月号

温暖化の進行で収穫量は減る。さらに、温暖化対策が食料を奪う。危機を回避するための手段は提示されているのだが……。 二〇三〇年――。国連の推計によれば、地球上に暮らす人の数は、現在より十八億人多い八十三億人となる。新興国を中心に食料の需要は急増するとみられるが、農業生産は追いつかない。今後、さまざまな形をとった食料の奪い合いが激しさを増すだろう。 農業生産を減らす大きな要因は、地球規模の気候変動だ。経済協力開発機構(OECD)によると、世界の温室効果ガスの排出量は、目立った対策が取られなかった場合、今後二十年間で現在の約五百億トン(二酸化炭素換算)から三七%増え六百八十億トンに達し、世界の平均気温は〇・四度上昇する。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などによると、気温の上昇は高緯度地域(寒冷地)での農業生産を増やす一方で、低緯度地域(赤道を中心とした南北回帰線までの地域)で生産される農作物に高温障害などをもたらし、収穫量を減らす。この傾向は早ければ二〇二〇年ごろから顕在化し始め、世界最大の穀物生産地である北米や、人口増加が著しい南アジアでの減産は避けられないと予測されている。農耕地が減っていく

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