覇権維持のカギは「同盟」と「エネルギー」

執筆者:立野純二2010年4月号

 二十世紀の超大国・米国は今世紀も覇権を維持できるのか。近年繰り返されてきた、その論議の大勢はリーマン・ショック以降、悲観論に傾く。最近の米国言論界では、十八世紀の歴史学者エドワード・ギボンの名著『ローマ帝国衰亡史』が頻繁に引用される。戦争の拡大と経済破綻。今の米国が犯した過失を歴史になぞらえ、警鐘を鳴らす論調が多い。 皮肉屋でならす経済評論家のベン・スタイン氏は米ニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、八十年後に北京大学が出す歴史書を予測した。題名は「米国の衰亡」。超大国が今世紀初頭からの「愚かな政治」で衰退に至る過程を、新覇権国家の中国が分析するという見立てだ。 もちろん、突出した科学・軍事技術力や人口増による潜在的成長力を根拠に、米国の覇権の長期化を予想する見方もある。すでに米国と並ぶ「G2」と評される中国も、二十年後の国内総生産(GDP)はまだ米国には追いつかない。しかし、そうした汎アメリカ主義の信奉者たちも、反論に苦しむ懸念が深まってきた。過去の多くの帝国に共通した病――それは「国家財政の危機」だ。 イラクとアフガニスタンの戦争と景気対策へ巨費を投じ続ける米財政の赤字は、二〇一〇会計年度で史上最悪の一兆五千億ドル超。対GDP比で危険域の一〇%超に突入する。その改善は今後十年以上は困難とされ、米国の手足を縛り続ける。ブッシュ前政権的な「減税政治」と「単独行動主義外交」は、米最後の放漫国家経営だったといえるかもしれない。

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