楽観論を遮るいくつかの不確定要素

執筆者:遅野井茂雄2010年4月号

 この先二十年は中南米諸国の独立二百周年を挟む節目の時期と重なる。中南米の独立は一八〇四年の仏領ハイチを嚆矢とするが、大陸部は一八二〇年代前半にほとんどが独立を達成、一八三〇年、南米解放の英雄ボリバルの死でグランコロンビアが瓦解し、今日の国家群が完成した。 ハイチが独立二百年を混乱と絶望の淵で迎えたのとは対照的に、多くの国は将来に楽観的な展望をもてるだろう。この一月、南米初のOECD(経済協力開発機構)加盟が決まったチリは、堅固な財政基盤をテコに震災から回復し、名実ともに先進国入りを確実とする。「未来の大国」と呼ばれ続けたブラジルは、二〇一六年のオリンピック開催を経て「離陸」を終えよう。航空機製造など工業基盤と二億人の市場をもつ資源大国は、沖合の海底油田の開発も順調で世界経済のビッグ5に近づく。G20をはじめ国際舞台でもアメリカと対等に渡り合う新興民主大国としての地位を確立するだろう。 他方、過度の資源ナショナリズムを掲げるベネズエラなど急進派政権は、資源を国民生活や地域統合に活かせるか、国家介入主義の開発モデルの成否にも決着がつく。世界のリチウム埋蔵量の半分を握るボリビアにとってもレアメタルは宝の持ち腐れになりかねない。ブラジルなどと経済発展に差がつくようだと、アメリカを意識してボリバルが夢想した中南米統合の主導権は、チャベスからブラジルに完全に移るだろう。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。