「民みん部分連合」はあり得るか

執筆者:原英史2010年7月23日

 参院選での民主党敗北。ねじれ国会が再びやってきた。民主党政権は当面「部分連合」を模索することになろう。
その中で、重要政策課題として、「公務員制度改革」への注目も高まってきた。参院11議席を得たみんなの党との協力は、単に民主党の参院議席数と足し合わせるだけでは過半数に達しないとはいえ、有力な選択肢の一つ。協力のためには、同党の看板政策たる「公務員制度改革」での合意形成が欠かせないからだ。
政権中枢からも「(みんなの党と)公務員制度改革の考え方の方向性は一致している」(玄葉光一郎・公務員制度改革担当大臣)などの発言が聞こえてくる。
 だが、「民みん部分連合」の可能性は本当にあるのだろうか。
 たしかに、民主党とみんなの党の議員たちのテレビでの発言を聞く限り、「公務員制度改革」では似通っているように思える。「天下り根絶」「人件費削減」「政治主導」など、キャッチフレーズも一緒だ。しかし、では歩み寄り可能かと言うと、そう簡単ではない。というのは、「民主党議員たちのテレビ番組での発言」と「民主党政権から実際に出てくる政策、例えば法案や閣議決定など」との間には、大きな乖離があるからだ。

「天下り根絶」と「給与カット」

 第1に、民主党は本当に「天下り根絶」を実行するのか。
「天下り根絶」はもともと民主党の金看板だったはずだが、実際のところ、菅内閣がやっていることは正反対だ。6月22日、「独法などへの現役出向の拡大」や「幹部用のスタッフ職創設」を内容とする「退職管理基本方針」を閣議決定。これは、白石均氏が本サイトで指摘した通り(7月9日「ひそかに退職勧奨を受けた改革派官僚」)、「事実上の天下り全面解禁」に等しい。
 菅内閣は、参院選後になって、「事業仕分けでムダが指摘された法人には現役出向を認めない」ことを追加決定した。高まってきた批判をかわそうとしたのかもしれないが、逆にこれで、「現役出向」の本質がますます明らかになってしまった。改善すべき問題がある法人に、「問題を解決してこい」と命じて官僚を出向させるなら、まだ分からないでもない。ところが、問題がある法人はプロパー職員だけで乗り切らせ、問題が解決したら「現役出向」の官僚を送り込むというのだ。これでは、「現役出向」なるものが、仕事をさせるための制度ではなく、給与を与えるための制度、つまり単なる「天下りの代替措置」と白状してしまったようなものだ。
 「現役出向は、退職金を二重取りしないので、天下りとは違う」という主張もあるが、これまたおかしな理屈だ。従来の天下りなら、「役所に30年、その後、天下り法人に5年」在籍すると、「30年分」と「5年分」の退職金をもらっていた。「現役出向」に切り替えると、「35年分」通算して退職金をもらうことになる。「回数が1回減る」というのが上記主張だが、言うまでもなく、計算根拠になる年数は同じで、総額が大幅に減るわけではない。
 みんなの党は、今回の参院選マニフェストで、「『天下りに代わるポスト創設』(窓際ポスト創設、現役出向拡大)は認めない」と明記している。「民みん部分連合」のためには、まず、「退職管理基本方針」の白紙撤回が前提になるだろう。もちろん、菅内閣がそちらに舵を切ろうとすれば、霞が関の幹部クラスからは大変な抵抗を受けるはずだ。
 第2に、「給与カット」はできるのか。
 民主党マニフェストでは「国家公務員総人件費2割削減」とあるが、先の通常国会に民主党政権が提出した法案では、給与カットには一切触れられていない。それどころか、仙谷由人官房長官(発言当時、公務員制度改革担当大臣)は「給与を下げればいいじゃないかみたいな議論は慎むべき」と国会で答弁し、消極姿勢を明らかにした(本サイト6月4日拙稿「公務員制度改革も支離滅裂だった鳩山政権」参照)。
 「それでは、どうやって人件費削減するのか」という問いに対する民主党の答えは、「新卒採用の抑制などで頑張っている」というものだ。しかし、当たり前だが、高齢職員と比べ給与が数分の一に過ぎない新人の採用数を多少減らしてみても、「人件費2割削減」など決して実現しない。
 一方のみんなの党は、マニフェストで「公務員給与2割カット、ボーナス3割カット」を明記した。これも、そう簡単に乗り越えられない差異だろう。仮に民主党が踏み込めば、今度は、公務員労組の反発を招く。焦点が当たるほど、労組系と非労組系の党内対立にも発展しかねない難題なのだ。

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