経済は順調に見えるが……(行列の絶えない上海万博) (c)AFP=時事
経済は順調に見えるが……(行列の絶えない上海万博) (c)AFP=時事

 2008年9月のリーマンショック以降の世界経済を牽引してきた中国経済に何らかの変調が起きていることを今、多くの人が感じている。変調は見た目ではわかりにくい。4-6月の成長率も10.3%と、11.9%の突出した成長率だった1-3月より下がったとはいえ、世界でみれば圧倒的な高速成長だ。輸出も1-6月で前年同期比35.2%増という伸びだった。上海は万博見学の国内旅行者で活況を呈し、西安、重慶など内陸都市では建設工事がむしろ活発化している。  何が変調の予感をもたらしているかといえば、マンションなど住宅価格の高騰、自動車の異常な売れ行きに潜む非現実感と全国各地で起きている工場労働者の賃上げ要求だ。「ひずんだ急成長がいつまでも続くわけはない」という感覚は多くの中国人に共有され、警戒心をかきたてる。

景気刺激策が息切れ

 変調を分析して行こう。中国経済が今、直面している変調は、30年程度の長期的な大変化の波と短期的、循環的な波が重なってつくられる「経済変調の合成波」とみることができる。
 短期的な波でまず変調がみえ始めているのは08年11月に打ち出された4兆元(約53兆円)の大型景気刺激策の息切れだ。内陸部では鉄道や道路の建設など政府投資の事業は依然活発だが、内陸の省都級都市や沿海部では工事は減りつつある。インフラ向けに好調だった鋼材、セメントなどの売り上げは前年比でマイナスに転じ、鋼材在庫などが積み上がりつつある。政府は7-9月の工業生産(大型国有企業)の伸びが12.8%増と、1-6月の伸びに比べ5ポイント近く降下すると予測している。
農村部の家電普及を促進するための「家電下郷」などの政策や環境対応車の販売促進のための補助金は、販売失速を懸念する中央政府の判断で延長されたが、薄型テレビの販売は春先から下降線をたどり、液晶パネルの市況は再び下落している。昨年、世界最大の販売市場となった自動車は前年同月比では6月も23.6%増などプラスを続けているが、月間販売台数は3月の173万5000台をピークに急速な減少に転じている。環境対応車優遇策の販促効果は明らかに息切れしている。5月以降、沿海部を中心に工場労働者の賃金の大幅引き上げが実施されたが、所得増による消費拡大効果はまだ見えてこない。

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