北朝鮮の「魚雷攻撃」めぐる新説

執筆者:春名幹男2010年9月2日

 オバマ米大統領が8月30日、韓国海軍哨戒艦沈没事件などに関連して、北朝鮮に対する新たな制裁を発表した。
 予想外だったのは、事件に対する直接的な制裁対象を発表しただけでなく、麻薬や武器輸出、マネーロンダリング、偽札といった違法行為の対象の方が目立つことだ。
 なぜ今、こうした包括的な厳しい制裁を発表したのか。記者会見したリービー財務次官(テロ・金融犯罪担当)とアインホーン国務省対イラン・北朝鮮制裁調整官は「指導部を狙った」制裁であると指摘している。北朝鮮は違法行為によって得た資金をぜいたく品購入などに充てている。
 朝鮮労働党代表者会を前にして、あえてぜいたく品購入資金の流れを遮断しようとする措置は、金正日総書記の指導力をそぐ狙いがあるとみてよい。三男、金ジョンウン氏の後継体制構築に向けた動きを牽制する措置、ともみられる。
 さらに、沈没事件に対する直接制裁の方が控えめなことが気にかかる。直接制裁の対象は、人民武力省偵察総局と金英徹・同総局長、武器輸出企業の「青松連合」だけ。偵察総局は事件を主導したこと。青松連合は哨戒艦「天安」を攻撃したとされるCHT02魚雷を輸出していることが問題にされている。
 制裁発表と相前後して米国のメディアで、気になる情報が伝えられた。
 元米中央情報局(CIA)ソウル支局長で駐韓大使などを歴任したドナルド・グレッグ氏がニューヨーク・タイムズ紙に、ロシアは独自調査で、「天安」を沈没させたのは魚雷ではなく機雷だったとの結論を出した、と書いている。対照的に、週刊誌タイムは韓国が2、3週間内に事件の詳細な報告書(287ページ)を発表するという。その内容を関係国がどう判断するのか。北朝鮮国内情勢も絡んで、極めて注目される。 

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