4年前に「市民革命」を引っ提げて登場したエクアドルのコレア大統領が5日来日した。
   2005年「みんな出ていけ!」と叫び、当時のグティエレス政権を崩壊させた市民反乱の勢いに便乗して権力を掌握してきたのがコレア大統領だ。既成の政党や政治家への不信を追い風に政党基盤を持たないアウトサイダーとして登場、反新自由主義と国家構造の転換を掲げて世論を誘導し、憲法制定議会の招集によって議会を封じた権力掌握術は、ベネズエラのチャベス政権と共通する。08年国民投票で承認された新憲法の下で、09年4月再選された。
   公正な社会の実現、生活の質の向上、多民族や自然との共生、自立主権外交の確立など、政権の目指す改革の方向性は、まさに革命に等しいものがある。新自由主義を痛罵し、その推進勢力アメリカやIMF・世界銀行など国際機関と対峙、反対に資源の国家管理の強化、貧困層への予算の重点配分や生産手段の供与、自然との共生、連帯や協力関係などに基づく新たな開発のパラダイムを提起し、信奉するチャベス主導のボリバル代替同盟(ALBA)にも正式加盟し、「21世紀の社会主義」を強調する。
  だが、掲げる目標と現実の政策との間には多くの矛盾を抱え、実際の政策は分裂気味ですらある。
 イリノイ大学で経済学博士号を得ながら反米、反新自由主義者となったコレア大統領としては、通貨主権を回復したいところだが、ドル化政策が10年間の経済の安定を導き市民消費のアンカーとなっただけに、手をつけられないジレンマがある。アメリカとのFTA交渉の打切り、マンタ空軍基地の09年11月以降の米軍使用更新を公約通り拒否したものの、麻薬対策協力の見返りに米政府から与えられるアメリカ市場への無税輸出の特恵関税を享受し続けている。ペルーとコロンビアが今年になってEU とFTAと結んだが、EUとはしぶしぶFTAの協議に応じる雲行きだ。
 また自然との共生を唱え、新自由主義に替わる持続可能な開発モデルを売りにしており、表向きは「環境立国エクアドル」をアピールしたいところである。その象徴が、「ヤスニITTイニシアティブ」だ。ヤスニ国立公園の3か所の石油開発を永久に凍結し(全体で8億4600万バレル、エクアドル全体の石油埋蔵量の20%に相当)、生物多様性を守り先住民の生活を保護する。エクアドル政府は、開発した場合に見込まれる収益(70億ドル)を放棄する代わりに、その半額36億ドルを国際社会から拠出を受け、「ヤスニ信託基金」として持続可能なエネルギー開発や社会開発に利用するというものだ。環境団体が考案したものを、2007年の国連総会で大統領が提起し、紆余曲折を経てようやく8月3日に信託基金を管理する国連開発計画との間に合意をみた。これにより4億トンのCO2の排出を防ぐことができ、拠出する先進国政府、企業は排出権の買い取りとして利用できる。気象変動に対する画期的な提案として注目されている。問題は、基金が想定したように集まるかであり、すでにドイツ政府が拠出を申し出ているが、今回の訪日でも日本側に拠出の要請や、関連の代替エネルギー開発への協力支援があるはずである。
 だがコレア政権は、国家主導の下で資源開発を推進する立場を変えているわけではない。植民地時代からの延長とみなされた一次産品輸出モデルを転換することを掲げてはいるが、改革に充てる財源を資源開発の収益に依拠せざるをえないのが実情である。一見、先住民寄りの政権と見られがちだが、この点が、先住民連合(CONAIE)などが批判する所であり、先住民勢力は水資源法にも反対するなど、現政権との対立姿勢を崩していない。新自由主義反対の急先鋒として1996年、2000年と2人の大統領を辞任に追い込んだ先住民勢力は、アマゾンの石油開発とアンデス越えのパイプラインの建設で先住民の生活環境が著しく破壊されたことから、資源開発それ自体に反発している。自然との共生はそもそも先住民側が主張してきたものであって、その概念が都合よく使われている点にも憤りを隠せない。
 また市民革命の原点は、公共政策決定への市民の参加や熟慮民主主義を制度化していくことにあり、新憲法や国家開発計画では、地方自治体を含め各レベルでの予算や開発計画への市民参加を促している。ところが選挙管理に続き、第5権力として市民参加・監視委員会の設置が憲法に盛られ、市民の側から公権力を監視する制度が作られたが、現実には政党の体をなしていない与党祖国同盟(AP)の機能不全を前に、参加や反対意見を拒む大統領主導のトップダウンの政治手法とあいまって、大統領の独裁化を強めるものと批判されている。
 最後に、マクロ経済の先行き不安感である。石油価格の下落やイデオロギー先行による投資環境の悪化は、財政運営に問題を投げかけており、多くの専門家は来年にかけての行き詰まりを口にしている。先頃40億ドルという中国の大型借款が話題を呼んだが、石油価格の上昇とともに「戦略的同盟国」の支援に望みをつなげたいところだ。

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