郵政民営化を「非感情的」に考える

執筆者:田中直毅2010年9月7日
今年3月、郵政民営化委員会の終了後、記者会見する田中氏(C)時事
今年3月、郵政民営化委員会の終了後、記者会見する田中氏(C)時事

 今回は郵政民営化という、2005年の「郵政選挙」によって国民に選びとられた主題についての自分の考え方を述べたい。そしてこのことは、郵政民営化委員会の委員長を06年以来引き受けている自分の立場を改めて明らかにすることでもある。  郵政民営化委員会は、現行法の郵政民営化関連法に基づいて設置された。委員会の役割は、①国民利便の向上②民間事業体としての郵政諸事業の自立と、株式売却が可能となる業容の確立③旧官業としての郵便、郵貯、簡保という3事業体が、他の民間企業との間において競争条件を歪めることなく、民間経済秩序の中にいわば融解すること、という3つの要請がともに満たされるべく、新規業務についての許認可の基準を明らかにすることであった。こうした判定業務を行なうにあたっての調査審議の中で、定期的に民営化の実情について意見を述べることも役回りとして法定されていた。

「暗黙の政府保証」という迷信

 委員会が仕事を開始した直後から、国が100%の株式を保有するゆうちょ銀行とかんぽ生命の新商品売り出しや、預入および加入の限度額の引き上げを、認可するや否やが最も議論が分かれるところであった。
 背景には「暗黙の政府保証」という概念が存在した。国が株主である限り、そうした金融機関に倒産の「自由」はあり得ず、結果としてすべての債務は保全されるだろう、という国民の間にある根深い「迷信」のゆえに、破綻確率をゼロと思い込んで、預金や契約に至る人が跡を絶たない、という考え方である。
  もしそうだとすれば、競争条件は歪められ、旧官業の肥大は起きがちであるところから、新規業務などは認可すべきではないという主張になる。日本で営業する銀行や生保会社は「暗黙の政府保証」は国民の認識として存在するとの判断から、この主張で足並みを揃えた。
 数回にわたるヒアリングを通じて、彼らは委員会の判断に厳しい批判を加えたといえよう。なぜなら委員会は、具体的な競争条件の変化については注意深い観察を続けるとしながらも、ゆうちょ銀行とかんぽ生命に条件付きの新規業務認可を行なうという方針を示してきたからだ。これは民営化関連法が、両社に事業体としての企業価値の確立を求め、完全民有民営に至る株式売却の実施という経路の確立(前述の②)を求めていたからだ。

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