「民主」「公明」接近へのハードル

執筆者:野々山英一2010年10月8日
公明党3役。左から石井啓一政調会長、山口那津男代表、井上義久幹事長(C)時事
公明党3役。左から石井啓一政調会長、山口那津男代表、井上義久幹事長(C)時事

「強制起訴の判断を受けて起訴に至る初めてのケースだから政界全体として重く受け止める必要がある」  10月4日、東京第5検察審査会が民主党の小沢一郎元代表に対して「起訴議決」した直後の公明党・山口那津男代表のコメントだ。  小沢氏の強制起訴は、野党にとっては千載一遇の攻撃のチャンスのはず。にもかかわらず、山口氏の「政界全体として」という発言は、与党議員ではないかと疑うほど抑制的なものだった。公明党は、小沢氏の証人喚問要求では他の野党と足並みを揃えてはいる。だが「議員辞職すべきだ」と明言した自民党の谷垣禎一総裁、「証人喚問を要求するのは当然だ」と声を張り上げたみんなの党・渡辺喜美代表ら他の野党党首の発言と比較すると、山口氏の発言が異彩を放っていることがよくわかる。

仙谷氏の秘書はどうなる

 この事実は、強制起訴という激震に見舞われた菅政権にとって、この上ない朗報だった。
 菅政権にとって最大の懸案は、参院で与党が過半数割れしているねじれ国会への対応だ。そこで最も期待を寄せるのは公明党。公明党が政権に加われば、参院で過半数を回復し、衆院では再議決可能の「3分の2」以上の議席を確保できる。同党が自民党との連立で約10年間にわたり与党を経験してきたことも頼もしい。仙谷由人官房長官や民主党幹部らは、それぞれのチャンネルで公明党と接触を図り、涙ぐましいほどの懐柔策を行なっている。
 9月26日、東京・八王子市の東京富士美術館を菅直人首相が“電撃訪問”したことは、その象徴だ。この美術館は、公明党の支持母体・創価学会の池田大作名誉会長が設立した。「絵心があるという話は聞いたこともない」(首相周辺)菅氏の訪問が、公明党、ひいては学会員に対する連帯のメッセージだったのは間違いない。菅首相の訪問について、山口氏はBSフジのテレビ番組で「もっと実のあるアプローチの仕方を工夫すべきだ」と、表向きは冷淡な姿勢を見せた。公明党関係者によると「首相の訪問は官邸側からの打診。当日朝まで連絡はなかった」という。だが仙谷氏は、親しい人物に「先方から話があった」と説明している。双方の話は食い違うが、いずれにしても両者のホットラインが構築されつつあることをうかがわせるエピソードだ。公明党内では仙谷氏と人脈を持つ井上義久幹事長の存在感がうなぎ上りになっているという。
 仙谷氏といえば、創価学会と袂を分かった矢野絢也元公明党委員長の息子を公設秘書に採用しており、これに対し公明党は極めて強い不快感を持っている。仙谷氏は「雇用の自由はある」などとしているが、公明党の政権参加が決まった段階で、公設秘書を退かせることを「セレモニー」にするとの見方も広がっている。

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