「レッド・エド」率いる英労働党が歩む茨の道

執筆者:藤沢朝矢2010年10月13日
僅差で兄デービッド(左)を破った弟のエド・ミリバンド氏 (c)AFP=時事
僅差で兄デービッド(左)を破った弟のエド・ミリバンド氏 (c)AFP=時事

 5月の英国総選挙で敗北し、13年ぶりに野党に転落した労働党の新しい顔が決まった。次期リーダーとして有力視されていた兄デービッド(前外相)との激しい兄弟対決を制して新しい党首に選ばれたのは、40歳のエド・ミリバンド氏(前エネルギー・気候変動相)だ。  9月下旬、秋風が舞う英国中部マンチェスターで開かれた臨時党大会での党首発表。英国人記者たちの顔が一瞬、青ざめた。労働党幹部からのリークがあったのだろう。この日の英紙は、一斉に弟ミリバンド有利と報じていた。しかし、最初の投票結果は予想に反してデービッド氏に有利なものだった。しかも会場入りしたデービッド氏の顔に笑みが浮かんでいたのに対し、エド氏はしかめっ面を崩さない。ひょっとすると土壇場でデービッド氏が巻き返したのかと思われた(この時点で候補者たちは結果を知らされていた)。

勝負を分けた労働組合票

 労働党の党首選出の仕組みは複雑だ。議員や党員に加え、労働組合など支持団体が投票権を持つ。投票は一種の選択投票制(AV)。過半数の得票者がいない場合、少数得票者への投票は死票とならず、2番目の優先順位をつけた候補者の票に振り分けられる。
 今回、候補者は5人で最少得票候補が除外されるたびにその票が他の候補者に振り分けられた。4ラウンドにわたり発表された結果をみると、ラウンド3まで兄デービッド氏がリードを保っていたことがわかる。ところが最終ラウンド前に、「第3の候補」エド・ボールズ氏の落選が決まり、同氏の票が兄弟に振り分けられた時点でエド氏が逆転した。ボールズ氏はブラウン前首相(前労働党党首)の側近で党内では労働組合などの支持が大きい左派。最終ラウンドの得票率はエド氏50.65%、デービッド氏49.35%ときわどい差だった。議員、党員の支持ではエド氏を上回ったデービッド氏だが、労働組合の票を取り込めず、明暗が分かれた。
 60万人の組合員がいる有力労組GMBのケニー書記長は、なぜ弟の方が党首としてふさわしいかを説明した手紙にエド氏の写真を添えて、投票権を持つ組合員に送付したという。労働組合が政党の党首選出で大きな票を握るのは、1970年代にキャラハン首相が組合の強い要求に屈して導入して以来の仕組みである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。