ティーパーティー運動を操る黒幕

執筆者:竹田いさみ2010年10月21日
反英闘争の愛国派指導者サミュエル・アダムズの銅像(ボストン、筆者撮影)
反英闘争の愛国派指導者サミュエル・アダムズの銅像(ボストン、筆者撮影)

 秋が深まる米国ボストンの旧市街を散歩していると、カメラ片手に観光客が談笑する光景を目にする。手入れの行き届いた小さな公園、星条旗が飾ってある瀟洒な民家などが点在するボストンには、アメリカ独立戦争に因んだ史跡がじつに多い。レストランで食事をしていると、ボストンの地ビール「サミュエル・アダムズ」を注文する声も聞こえてくる。このビールの名前は、イギリスからの独立を勝ち取る作戦で大活躍した愛国派指導者に由来する。反英闘争の発火点となった「茶会(ティーパーティー)事件」の舞台として、ボストンはアメリカ人にとって魂の故郷だ。  アメリカ独立の原点に立ち戻り、「小さな政府」を目指そうという保守系の市民運動「茶会」が全米を席巻している。照準は11月2日に行なわれる中間選挙に向けられ、この選挙でオバマ民主党政権に大打撃を与え、首都ワシントンの政治の流れを保守層に回帰させる運動だ。保守層といっても、茶会運動の推進者たちは現在の共和党に失望し、より急進的な保守政治家をワシントンに送り込み、新風を吹き込む気概に燃えている。運動の担い手は白人だ。アフリカ系のオバマ米大統領が掲げた国民皆保険制度、自動車・金融産業の救済に巨額の税金を投入したことに反発し、アメリカを「社会主義国」に陥れるオバマ路線に真っ向から立ち向かう。  茶会運動はオバマ政権発足後の2009年4月に産声を上げ、本年8月末には首都で10万人を動員して集会を開いた。共和党上院予備選では各地で茶会運動が推薦する新人候補が、現職の共和党候補者を落選させるなど、とても「草の根」の市民運動とは思えない政治勢力へと変貌している。事実、この「草の根」にはりっぱな後ろ盾がいた。共和党の重鎮カール・ローブ、FOXテレビを経営するメディア王ルパート・マードックなどが多額の資金を投入して、茶会運動を操っているのだ。背後では4つの団体――共和党右派の集金マシーンであるアメリカン・クロスロードとアメリカン・アクション・ネットワーク(AAN)、大企業への増税と国民皆保険に反対する米商工会議所、反ワシントン色の強い共和党知事協会(RGA)が連携している。強大な黒幕が見え隠れする政治ドラマが展開中である。

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