地デジ問題で高まる「停波延期論」

執筆者:清家亮2010年11月4日
今年7月、ゆるキャラの「地デジカ」を手に、地デジ完全移行1年前の式典に参加した原口一博総務相(当時、中央)、NHKの福地茂雄会長(左)ら(C)時事
今年7月、ゆるキャラの「地デジカ」を手に、地デジ完全移行1年前の式典に参加した原口一博総務相(当時、中央)、NHKの福地茂雄会長(左)ら(C)時事

 地上テレビ放送のデジタル完全移行、すなわちアナログ停波の予定日(来年7月24日)まで8カ月余りとなった。地上デジタル放送(地デジ)への移行はテレビの歴史でカラー化に並ぶ大変革。しかし、関係者の間でお祭り気分が盛り上がる様子はない。国民向け地デジPRを業務としている社団法人デジタル放送推進協会のウェブサイトに掲載された「あと○○日」のカウンターの数字が減っていくのを、冷や汗をかきながら横目で見ている者がほとんどだ。停波でテレビが見られなくなる「地デジ難民」への対応など、解決すべき問題は山積。テレビ局の現場では「もうだめでしょ。織り込み済み」との声も漏れる。政府はあくまで予定通りという立場を崩していないが、停波延期論は日を追うごとに強まっている。

NHKが1割減収

 10月に入って衝撃的な数字が明らかになった。NHKによる内部調査の結果、アナログ停波によってテレビが見られなくなる「難民」が続出することから、2011年度の受信料収入予想のうち最大で666億円、すなわち約1割が吹っ飛んでしまう試算が出たというのだ。あるNHK幹部は「07年にデジタルに完全移行したフィンランドで、国営放送の受信料収入が減少したという事例がある。だから、多少は覚悟していたが、これほどの巨額とは……。経営計画の練り直しなんてレベルの問題じゃない。どうやって予算を組んだらいいのか」と暗い表情だ。
 プロデューサーによる番組制作費横領事件(04年)など相次ぐ不祥事で、受信料不払いが激増した危機的状況からようやく回復してきたNHKにとっては大変な打撃だ。試算内容をもう少し詳しく紹介すると、10年度末の受信契約件数予想は3722万件で、11年7月のアナログ停波によって最多で448万件、最少で62万件減ることから、受信料収入が666億―91億円減少するという。10年度予算の受信料収入は6550億円だから、10―1%の幅で減収となる。
 NHKは中期経営計画(09―11年)で、組織再生のシンボルとして、コストカットなどさまざまな構造改革を進めて、12年度に受信料収入の10%を何らかの形で還元すると視聴者に「公約」している。NHK経営委員会の小丸成洋委員長(福山通運社長)は「基本的には値下げだと思う。まだ十分な議論はしていないが、年内に見通しを示すべきだ」と言い、一方で福地茂雄会長は「一律値下げの問題ではないと思っている」とサービス等の形を取る可能性を示唆するなど議論が続いているが、「地デジ難民問題」で還元自体が見送りとなる公算も出てきた。
 視聴者が減るということは、ただでさえ経営が悪化している民放にとって「泣きっ面に蜂」(在京キー局幹部)だ。景気の回復傾向を受けてスポットを中心に少しずつ広告出稿が持ち直しており、在京民放キー局5社の2010年4―6月期連結決算では、TBSを除く4社で前年同期に比べ売り上げが増加するなど明るい兆しもあるだけに「だから地デジには反対だったのに」(在京キー局幹部)という、何を今さらという恨み節さえ聞こえるありさまだ。

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