TPP(環太平洋経済連携協定)は、大混乱の挙句、当面は参加するかどうかの結論を先送りすることとなった。
 
6日の関係閣僚委員会で合意された「包括的経済連携に関する基本方針」(9日閣議決定見込み)では、TPPについては、「情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」との文言。
あくまで、情報収集の「協議を開始」するだけで、「参加」するかどうかは未定というわけだ。
 
これで、今後、来年11月までの妥結を目指して急ピッチで進むと見込まれるTPP交渉で、我が国がプレイヤーとして主体的に関与できる余地は、かなり小さくなっただろう。
 
「文言」以上に、農業についての段取りが問題だ。
「基本方針」では、農業改革の基本方針を「11年6月を目途に決定」とされている。
農業の見通しが立たない限りTPP参加を巡る環境が大きく変わらないことを考えれば、「来年6月」はいかにも遅い。
 
また、「6月」というスケジュール設定の意味は、中央省庁の業務カレンダーを知る人には、だいたい見当がつく。
翌年度の概算要求(例年、7月にシーリング決定、8月末に概算要求)に乗っけて、大きな予算を確保しようとするとき、前提として「6月」までに根拠文書を決定、というスケジュール設定をよく行うのだ。
 
こうしてみると、結局、TPP交渉への早期本格参加は二の次で、ともかく、今回の一件を「予算確保」につなげようという欲望ばかりが透けて見えるようだ。
 
役所が先月来、国会議員などへの説明に使っているTPP関連の説明資料でも、その兆候は見える。「韓国のEPA関連農業政策」というシートで、
・日本より先行して米国などとFTAをまとめた韓国が、この10年間で総額約9兆円の農業対策予算を投入したこと、
・日本と韓国の農業産出額を比較すると、日本が3倍程度であること、
をわざわざ記載しているのだ。
つまり、日本では、韓国の数倍の、数十兆円規模の農業対策予算が必要と言いたいのだろう。
 
本来、いかに農業の競争力を強化するかという問題は、予算確保だけの話ではない。
例えば、減反政策の見直し、農地制度のあり方、新規参入の促進といった、長らく懸案となってきた課題について、期限を切って早急に検討すべきだと思うのだが。
 
(原 英史)

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