マチュピチュ遺産百年振りペルーに返還の背景

執筆者:遅野井茂雄2010年11月25日

 11月19日ペルー外務省の発表によると、米エール大学長の代理人としてガルシア大統領と会見したセディジョ・エール大学グローバル研究センター所長(メキシコ元大統領)は、同大学がマチュピチュ・コレクションとして保管している出土品をペルーにすべて返還する意向を伝えた。来年2011年7月は、エール大学考古学教授であったハイラム・ビンガムがマチュピチュ遺跡を発見してから100年に当たる。同教授が発掘後アメリカに持ち帰り、同大学の博物館に展示されている土器や金などの装飾品を100周年に合わせ返還するというもので、2012年までに保管する遺産の全てを返還することになる。

 2008年からペルー政府はエール大学を相手取り、4万点に上る出土品の返還を求め裁判で争ってきたが、同大学は画期的な決断を下すことになった。文化振興を外交政策の基本に位置づけるペルー政府にとって、マチュピチュ遺産の返還はまさに外交的快挙である。返還された遺産はクスコのサンアントニオ・アバ国立大学に保管される見通しで、来年から新たなインカの遺産がペルーの観光資源に加わることになる。

 文化遺産の返還の背景にはペルーとアメリカとの友好関係がある。反米左派が多い南米で、ガルシア政権(2006~2011)は、ベネズエラのチャベス政権を「原理主義」と批判してきた数少ない親米政権であり、ホンジュラスの新政権もアメリカとともに承認している。2008年にはアメリカとのFTA(自由貿易協定)を発効させ、同年APEC開催国として、アメリカとともにTPP(環太平洋連携協定)への参加を表明し交渉を行ってきた。前年シドニーでのAPEC首脳会議でガルシア大統領は中南米における「太平洋の弧イニシアティヴ」を提唱し、アメリカとFTAを結ぶチリ、メキシコ、コロンビア、パナマの太平洋諸国との連携を推進してきた。「太平洋の弧」構想は、アメリカ主導の米州自由貿易圏(FTAA)構想が、ブラジルやベネズエラなど南米の大西洋岸諸国の反対で頓挫した中、アメリカにとっては米州における格好の通商戦略として浮上している。

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