高速鉄道は「グレーター上海」を変えるか

執筆者:森山伸五2010年11月29日
産業発展の鍵を握る(上海―杭州を結ぶ高速鉄道)(c)EPA=時事
産業発展の鍵を握る(上海―杭州を結ぶ高速鉄道)(c)EPA=時事

 上海と浙江省の省都、杭州を結ぶ高速鉄道が10月26日に開業した。上海虹橋―杭州間の202キロを最短45分で結ぶ。杭州は西湖など名所を抱え、訪れる外国人観光客も多いが、かつては上海から高速道路で3時間近くかけて行くしかなく不便な観光スポットだった。上海周辺では7月に江蘇省の省都、南京までの高速鉄道が開通しており、かつて日帰りなど考えられなかった上海―南京間を最短73分で結んでいる。

世界トップクラスの産業集積

 上海市とその後背地にあたる江蘇省、浙江省を含めたエリアを「長江デルタ」あるいは「グレーター上海」と呼ぶ言い方がある。エリアが行政地域を越えて一体的、有機的に結びつき、世界トップクラスの産業集積を形成しているからだ。
 多数の部品をひとつの製品に組み上げる電機・電子産業では、完成品メーカーがトラックを仕立て、1日に何回も多数の部品メーカー、部品加工会社、素材メーカーを回って部品や素材を集め、工場に集約する。牛乳配達になぞらえて「ミルクラン」ともいわれる部品調達の手法で、「ジャスト・イン・タイム」生産方式の輸送基盤でもある。グレーター上海ではいち早く高速道路を整備し、こうした「ミルクラン」が効率的に運用できるようにした。高速道路は、製品を航空貨物で輸出するため空港に運ぶのにも力を発揮した。上海周辺の高速道路は午後になれば、上海浦東国際空港に向かうトラックで込み合う。こうした物流インフラがグレーター上海のグローバルな産業競争力を高めた。

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