昔も情報は盗まれた

執筆者:徳岡孝夫2010年12月8日

 ジュリアン・アサンジ(39歳)という元ハッカーのオーストラリア人が始めた内部告発サイト「ウィキリークス」が、世界中にとどろく「爆弾」を投げた。彼らの握っている米国の外交公電がどんな内容か、まだ全部は分らない。  とにかく非常に刺激的である。国家元首を含む「偉い人」のナマの声が、遠慮会釈なくバラされている。女の裸身は、見てそれほど珍しいものではないが、鍵穴を通して見ると十倍も百倍も劣情をそそられる。漏洩した米国務省の情報も似たようなもので、ウィキリークスは全世界の窃視癖に訴えた。  私は一つ、素朴な疑問がある。その疑問とは「米国の外交公電は作成と同時になぜ暗号化されていないのか」だ。  思い出す昔の話は、70年近い前の真珠湾攻撃の直前、読まれたのは日本の外交電報である。  米国は攻撃を受ける前から、日本の外交暗号を解読していた。つまり東京の外務省とワシントンの日本大使館の間に交わされる会話を、すべて完全に聞いていた。日米交渉に出る野村吉三郎、来栖三郎両大使が東京から受けた訓令通り国務省へ交渉に来る。そのとき米側は、訓令の中身をすでに知っていた。  ただし解読した電文を英語に訳す段階で、一つ障害があった。当時の日本官僚が使う「帝国ハ……セントス」式の擬古文が、「しようとする」のか「しない」のか、判りかねたのである。当時の米国には、そういう日本語を理解し正しく訳せる人が(日系人を除けば)20人もいなかった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。