再建への道のりは険しい(ストリンガーCEO) (C)EPA=時事
再建への道のりは険しい(ストリンガーCEO) (C)EPA=時事

 ハワード・ストリンガー(68)がソニーのCEO(最高経営責任者)の座に就いて5年半。前任の出井伸之(73)が傾かせた世界のAV(音響・映像)機器メーカーをいかに再建するか、注目を集めてきたのだが、英国ウェールズ生まれでサー(卿)の称号を持つ元ジャーナリストにはどうやらその任務が重荷と なっているらしい。任期丸6年を迎える来年6月の退陣がしきりに囁かれ、社内には一向に進まない改革に無力感が漂い始めている。

アップルがソニーを買収?

 うわさのきっかけになったのは米投資情報紙「バロンズ」電子版の記事。10月18日に開かれた米アップル社の7~9月期決算説明会で電話会見に応じた同社CEOのスティーブ・ジョブズ(55)が、バランスシートに計上されている現金510億ドル(約4兆2000億円)の使い途をアナリストに問われた際、「火薬を乾燥させたままにしておきたい。将来、戦略的な買収機会が訪れると感じているから」と回答。それを伝える記事の中でバロンズの記者は買収候補企業の1つとして「ソニー」の名を挙げた。
 1週間後の東京株式市場で、このジョブズ発言を材料にソニー株が急騰した。10月26日の売買代金は486億円に膨らみ、この日の東証1部では最大。一時は前日終値より80円(3%)高の2804円にまで上昇した。ソニーは「根も葉もないうわさ話にはコメントしない」とまともに取り合わなかったが、市場関係者の間ではうわさがうわさを呼び、「ジョブズはソニー創業者である井深大や盛田昭夫をかねてから尊敬し、ソニー買収に関心があった」「改革で手詰まりになったストリンガー氏が不振のエレクトロニクス部門を売り払う」――といった観測がしきりに飛び交った。
 実際、アップルによるソニー買収は数字の上では十分あり得る話だ。ソニーの株式時価総額は約3兆円(12月21日現在)。プレミアムを3~4割としても、発行済み株式の過半数または3分の2くらいは前述のアップルの手元現金で買い取れる。ジョブズが元祖携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」やパスポートサイズの8ミリビデオカメラ「CCD-TR55」などを生み出したソニーの技術力に一目置いていることは有名な話である。買い手の材料に乏しい株式市場が久しぶりに沸き立ったのも無理はない。

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