我々は何も変わらない。変わるのはソニーだ――。

 親会社である天下のソニーを相手に気を吐くこの人物は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の久夛良木健社長(四九)。家庭用ゲーム機「プレイステーション」を全世界で七千万台販売し、「ゲームのソニー」を印象づけた立役者で、九九年四月より社長を務める。実はSCEはソニーグループの組織改革にともない一月五日、ソニーの実質完全子会社になったばかり。冒頭の発言は、完全子会社化でハード主体のソニーに操られるのではとの危惧に答えたものだ。

 そもそも巨大企業ソニーの躍進の理由は、ハードとソフト双方をにらんだ独自戦略にある。この戦略の歴史は古く、始まりは大賀典雄取締役(当時=現会長)が主導した一九六八年のCBSソニー設立まで遡る。その後、コロンビア、トライスターといった米映画大手を傘下に収めるなど、家電メーカーとして異例の戦略に邁進。なかでも、設立から十年足らずでソニー全体のの営業利益の四〇%超(九九年九月期)を稼ぎ出すSCEこそ、ソフト戦略の真骨頂といえる。

 久夛良木氏は一九七五年に電気通信大を卒業後、ソニーに入社。情報処理研究所でデジタル信号処理などの研究に明け暮れたが、当時のソニーでは本流ではなかった。ところが、八三年に発売された任天堂のゲーム機「ファミリーコンピュータ」に触発され、任天堂との互換ゲーム機開発の夢を掲げたことで転機が訪れる。互換機開発は頓挫したものの、九二年にゲーム機の独自開発を進言。役員総反対のなか、大賀会長の決断で開発はスタートした。

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