江沢民「十年戦略」を阻む国有企業政革

執筆者:藤田洋毅2000年2月号

最大の問題は「経営者の質と能力」

[北京発]「十年戦略の転換を余儀なくされました。自己批判とも受け止められかねない一言を口にしたのもそのためです」――中国共産党の幹部は、厳しい表情でこうつぶやいた。

 江沢民総書記は、九七年の十五回党大会を起点に、「十年戦略」を打ち出していた。十年戦略とは、(1)前半の五年間で経済問題の解決にメドをつけ、(2)その勢いに乗じて、二〇〇二年に予定される十六回党大会で続投を決め、徐々に政治民主化に踏み込む――との二段階戦略を指す。ところが、そんな江の目論見が大幅に狂っている。朱鎔基首相が首相就任の際、「三年で解決して見せる」と豪語した国有企業改革が、遅々として進まないからである。

 幹部が言う「一言」とは、昨春、党の最高意思決定機関である政治局拡大会議で、江の口から飛び出した「我們的估計不足(=我々の見積もりは不足していた)」を指す。最高指導者自ら「見通しの甘さ」を認めたため、当初は一部幹部が「深刻な自己批判」と過剰反応、新たな権力闘争を予測する声さえ出た。

「天下り」と同じ問題が……

 だがこの幹部によれば、「一言」が持つもう一つのポイントは、江が「我的=私の」と言わず「我們的=我々の」としたことだ。責任を問われるのが自分だけにならぬよう、国有企業改革は指導部全体の問題と位置づけたのだ。

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