「英語公用論」に異議あり

執筆者:徳岡孝夫2000年2月号

 碁とゴルフと語学の「三ゴ」は自慢するな。なんぼでも上がいる。誰が言ったのでもない。経験五十年の私が言う。

 教科書「キングスクラウン・リーダー」により、旧制中学で英語を習い出したのは、真珠湾攻撃の四カ月後だった。先生は「ニューヨークを占領したとき必要だから」などと言わなかった。少し難しくいえば、英語という全く日本語とは違う思考の枠組を持つ人が地球上にいることを教えるために教えた。

 名詞に単数形と複数形がある。自分を指す人称代名詞がアイしかない。私たちは休み時間にコンサイスを引き、「なぜワイフに複数が必要なんだよ」と言って笑った。

 旧制大学で英語英文学を専攻し始めて、今年はちょうど五十年になる。いらい記者として、平和の中と戦場で英語を使って商売してきた。英字新聞の記者もしたから、英語で読み書き話してきた。新聞社を辞めてからも、縁が切れない。現にチャーチル関係の原書を五十冊ほど机の回りに積み、毎日読んでは書き書いては読んでいる。

 べつに自慢ではない。事実である。そういう私が、日本の小学校で英語を教えることになったと聞いて、開いた口が塞がらない。小渕首相の私的諮問機関「二十一世紀日本の構想」懇談会が英語を第二公用語にせよと提言したと読んで、目を疑った。日本を第二のフィリピンにしたいのか。それともアメリカの五十一番目の州に?

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